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中華圏ゲームの発展史:2010年代中盤〜2020年代編(後編)|古市雅子・峰岸宏行

北京大学助教授の古市雅子さん、中国でゲーム・アニメ関連のコンテンツビジネスに10年以上携わる峰岸宏行さんのコンビによる連載「中国オタク文化史研究」の第12回(後編)。
ゲームを中心に中国のオタクコンテンツ市場が成熟していく一方、徐々に強まっていくコンテンツ規制の圧力。2018年のゲーム制作に対する新規審査の停止が業界に大きな打撃をもたらす中で、2020年からのコロナ禍がさらなる追い討ちをかけていきます。
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古市雅子・峰岸宏行 中国オタク文化史研究
第12回 中華圏ゲームの発展史:2010年代中盤〜2020年代編(後編)

『西遊記之大聖帰来』の成功により、アニメは大人でも楽しめるのかもしれない、という認識をもつ人が少しずつ現れるようになった気がします。

そして同2015年には、今日に至るまでセールスランキング1位を守り続けるロングランヒット、『王者栄耀』をテンセントがリリース。日本で現在も多くのユーザーを抱える『Fate/Grand Order』(アニプレックス 2015年)をbilibili動画が代理店となり、リリースします。bilibili動画は長年継続的な赤字で苦しんでいましたが、『FGO』の中国代理運営権を取得したことで大きく躍進する足掛かりになったと、決済報告書などから読み解くことができます。

2017年になると、ネットイースが本格幻想RPG『陰陽師』を発表。日本の平安時代を題材に、全編日本語、能登麻美子、諏訪彩花、中井和哉、鈴村健一、水樹奈々、桑島法子、福山潤、斎藤千和という豪華な声優陣、リッチな映像という、中国産なのか日本産なのかまったくわからないこの作品は人々の度肝を抜きました。

『陰陽師』と同年、『アズールレーン』が登場します。この作品は上海蛮啾網絡科技、厦門勇仕網絡技術の2社が協力し、中国のリリースをbilibiliが、日本でのリリースを、今や日本で圧倒的な知名度を持つローカライズ専門の企業、yostarが担当し、日本人が中国ゲームのクオリティに対する偏見を見直すきっかけとなりました。

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▲2018年にJR山手線で1周年ラッピング広告を行ったアズールレーン(筆者撮影)

文化部のアニメ制限、という数メートル巨人級の怪物は来ましたが、中国産ゲーム、アニメが大きく展開し、乗り越えたように見えました。しかし状況は2018年に一変します。

ゲーム審査停止とさらなるコンテンツ規制

2018年3月、中国のゲーム業界に今度は50メートル級の怪物が立ちはだかります。中国ゲームの新規審査停止です。3月29日、新聞出版広電総局が《遊戯申報審批重要事項通知》を発布し、新規ゲーム審査を停止するのですが、なんの予告もなく、また再開時期についても言及されませんでした。

ゲーム業界はコンテンツ市場で最も重要な稼ぎ頭で、製薬、不動産など多くの企業から多額の投資を受けており、またゲーム会社自身も映画やドラマに投資をする、中国エンタメ産業のいわば中心的存在で、ゲーム企業が稼げないのは、業界全体にとって大変大きな損失です。

テンセント、ネットイースといった、中国のトッププレイヤーは、様々なゲームを同時進行で制作、申請していたため、3月時点で新たに出版番号を申請・取得できなくとも、審査停止前に申請・取得していた出版番号を用いてゲームをリリースしましたが、中小規模のゲーム会社やパブリッシャーは難しい状況に追い込まれます。

中国のゲーム市場は、テンセントとテンセント以外、と言われるように、シェアの50%前後をテンセントが、25%をネットイースが、残りの25%をその他多くのゲーム会社が占める、非常に特殊な構成をしています。

当初はほとんどの企業が数カ月で審査が再開されると高をくくっていましたが、状況が改善されないまま約半年がすぎ、迎えた8月のChinaJoy以降から、「出海」(海外への進出)を謳い始めます。それまでは海外より国内市場の方が利益が大きかったのですが、国内でゲームをリリースできないため、海外を主戦場にせざるを得ない状況に迫られたのです。

幸いにも、欧米に向け『アズールレーン』を成功させたyostarや、それより早い2015年に日本へ進出したmiHoyoのように、日本向けゲーム市場を開拓していた上海莉莉絲網絡科技やFunplus等の企業が存在していたことが功を奏し、海外展開は早い段階で実行に移されていきます。

海外の業界がこれらの異変に気付いたのは、2018年8月、日本のオンラインゲーム『モンスターハンター・ワールド』の原因不明の配信停止がきっかけです。すでに世界中でリリースされていて、表現上特に大きな問題もなさそうな『モンスターハンター・ワールド』が中国で突然配信停止されたのはなぜか、どうやら中国でゲームの新規リリースが止まっているようだ、といった形で海外で報道されるようになったのです。

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▲2018年上海Chinajoyにて参考出展された『モンスターハンター・ワールド』

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