[オープン前夜特別座談会]「遅いインターネット」は、世界の「語り口」を変えていくために(前編)
『PLANETS vol.10』での構想発表から1年余、いよいよのオープンに向けてPLANETSが鋭意準備中のウェブマガジン「遅いインターネット」。いまの“速すぎる”インターネットに対して、新たなメディアはいかに抗っていくべきか。「遅いインターネット」創刊準備座談会として、様々な角度から視点・立場でネットメディアでの言論発信や実装に取り組んできた荻上チキさん、ドミニク・チェンさん、春名風花さんをむかえ、この20年間のインターネット史の“失敗”を検証します。
「遅いインターネット」は何を目指すのか
宇野 まず最初に、改めてこの「遅いインターネット」計画の趣旨の説明から始めたいと思います。今、僕たちは新しくウェブマガジンを始めようとしています。そのコンセプトは「遅いインターネット」。それは一言でいうと、速すぎる今のインターネットへの対抗運動です。
現在のインターネットは、タイムラインの情報の消費速度に合わせた、脊髄反射的なコミュニケーションがトラフィックの中心にあるけど、インターネットの可能性はそれだけじゃなかったはずだと僕は思うんです。もちろん速さもインターネットの武器のひとつだけど、進入角度とか、距離の取り方も含めて、インターネットの本当の可能性は、ユーザー側が情報に対する主導権を持つことができるところにあったのではないか。
僕らは二つのことを考えています。一つは、極めてベタにウェブマガジンをやる。そこではネットの旬の話題からは戦略的に背を向ける。もちろん、速報性の高いジャーナリズムに意味がないとは思わない。むしろ必要なことだと思うけど、それとは違う方向から攻めて、5年10年と読み継がれるような記事を更新してGoogle検索の引っかかりやすいところにおいておく。このウェブマガジンは、PV数に比例して得られる収益に依存したサイト運営を行わない。今のところオンラインサロンの収益とクラウドファディングで運営するモデルを考えています。そうじゃないと、どうしてもSNSの潮目を呼んだ「旬の話題」に扇状的な見出しをつけることになってしまう。
念頭にあるのは、欧米のスロージャーナリズムの流れです。月額数千円のサブスクリプションモデルで、都市部の知識人層向けに良質な調査報道のウェブ記事を配信するメディアが力をつけている。そういったメディアの共通点としては、非常に強力なコミュニティを持っていて、月額会員の支持者たちに向けた情報発信やワークショップを継続的にやっている。そのモデルをある程度、踏襲するつもりです。
ただ、僕はそこでスロージャーナリズムのように調査報道をやろうとは思わない。それは僕自身が文化批評の出身で、関心の中心が報道にないというのもあるけど、何より、良質な調査報道があっても、それを受け取る側のリテラシーが低いと、見出しだけを見てリツイートするので、結局フェイクニュースを鵜呑みにするようなことが起きてくる。なので、いわゆる調査報道とは違ったアプローチをしてみたい。時間をかけて新しい事実を掘り起こすのではなく、情報の洪水に晒されたときにそれを慎重に受け止められる知性のリテラシー、抽象的な言い方をすると、情報に対する距離の取り方とか進入角度とか、そちらに僕は関心がある。なので報道ではなくて批評という立場を、ここではあえてとりたい。
【新刊】宇野常寛の新著『遅いインターネット』2月20日発売!
インターネットは世の中の「速度」を決定的に上げた一方、その弊害がさまざまな場面で現出しています。世界の分断、排外主義の台頭、そしてポピュリズムによる民主主義の暴走は、「速すぎるインターネット」がもたらすそれの典型例といえます。
インターネットによって本来辿り着くべきだった未来を取り戻すには今何が必要なのか、提言します。
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