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Reブランディングされた喫茶文化がもたらす可能性 | 丸若裕俊

工芸品や茶のプロデュースを通して、日本の伝統的な文化や技術を現代にアップデートする取り組みをしている丸若裕俊さんの連載『ボーダレス&タイムレスーー日本的なものたちの手触りについて』。今回は、丸若さんのブランディングに対する考え方や、茶がこれからの働き方やパブリックスペースに与え得る影響についてお話を伺いました。(構成:高橋ミレイ)

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消費者目線の新しいコラボレーションのかたち

丸若 今年の3月でGEN GEN ANができてからちょうど1年経ったというタイミングもあって、ブランドとしてちゃんと茶を作りたいなと思ったんです。それで、どんなブランドになりたいかなと考えたとき、Gore-Texという、防水だけど湿度は逃がすナイロンのような素材のブランドみたいになりたいと思ったんです。僕は10代前半はNikeがすごく好きで、後半からはAppleも好きになったんですけれど、どちらも自己主張が激しいじゃないですか。茶のブランドなら、そういうブランドのよりもGore-Texを目指すのが良いなと思いました。Gore-Texって、自社の素材を使う他社のブランドとコラボすることで成り立っていて、他社の商品のタグにGore-Texのブランド名が表示されているんです。つまりGore-Texが品質保証をしているんですよ。

みんながストロングスタイルで胸を張っている状態じゃなくて、黒子のように寄り添うスタイルとプライドを持ったサポーター、もしくはセコンドが今の世界に必要な気がしています。その思想が茶と相性がいいんじゃないかなと。

宇野 つまり工芸ってなんだかんだで「モノ」づくりの側面が大きいわけですよね。結局モノのデザインや機能でコト=体験を演出するわけでしょう? 対して、茶って相対的にコトの側面が大きいわけですよね。色形と同じくらい、シチュエーションや飲むときのコミュニケーションが体験の質を決める。だから工芸=モノと、茶=コトでは他のプレイヤーとコラボレーションしていく上での方法論が結構違うのかなと思ったりもするんですよね

丸若 海外だとサインは「俺のものだ」という自己主張ですが、日本の場合は違うんですね。例えば茶器などの高台には、作家物の場合は作り手の名前が入っていることが多いですけれど、窯物(ブランド)の場合は窯元の名前が入っているものが当たり前になる前は、何も入っていない高台もあったんです。なぜその昔は刻印が無かったかというと、「唯一無二だから名前なんて入れなくて良い」という時代背景があったんです。しかし時代が進み、紛い物が出回りだしたことなどの理由で識別の意図で刻印を入れようという発想が生まれたんです。そしてその中間もあったんですが、それは何だったかというと、「保証」なんです。今のように完全にブランドになる前は「自分たちがちゃんと作ったものだから安心してね」と、相手のためにサインをしていた。大切なのは、こういうことじゃないかと思います。つまり、「このロゴで世界を席巻しよう」という上から目線ではなく、「安心してください」という消費者目線、あるいはフラットな目線でのブランド作りがすごく必要な気がするんです。それがGore-Texに何となく近い。

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