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コザの夜に抱かれて 第11話

 みゆきは職場の与えられた部屋にいた。ヘッドフォンからは音楽が流れている。リブロの<雨降りの月曜>である。そう、その日は雨だった。客もまばらで、ほかの女性たちは賭け事に興じていたが、みゆきは事務所に軽くあいさつだけして、すぐ部屋に行った。雨の静けさの中、けたたましい音で内線が鳴った。
「はい。もしもし」
『みゆきさんにお客さんです。一鉄さんです』
「わかりました。バスタオルが少ないので、このあと持ってきてもらえますか?」
『了解でーす』
 みゆきはかけていたメガネをバッグにしまった。その部屋は外の階段を回らなければいけなかったので、こつこつと革靴が階段を急ぎ足でのぼってきた。
「や、やあみゆきちゃん」
「お久しぶりです。雨、大変じゃなかったですか?」
「あ、雨はすごかったけど、今日はみゆきちゃんに会うって、き、決めてたからさ」
 そう言いながら、一鉄はカバンから<マキアージュ>の口紅をとり出して、プレゼントと言って渡した。
「ありがとうございます」
 みゆきは笑顔で応えた。
「そ、その口紅使って、キス、してくれない?」
 みゆきは0,5秒くらい考えて、いいですよ、と言った。
「こ、コンタクトにしたの?」
「はい」
「ふーん、そう。」
 言葉に残念だという響きをこめた。一鉄はみゆきに服を脱がされ、からだを洗い、行為に走った。そして、時間があまったので雑談していた。
「みゆきちゃんみたいな、綺麗でまじめそうな娘が、なんでこんな仕事してるの?」
 みゆきは、すこしだけ考えて、話しはじめた。
「ちいさいころ、ベランダを開けて、夕凪を浴びていたんです。すると、一匹の蝶が部屋の中に入ってきたんです。わたし、かわいそうだから逃がしてあげようとしたんです。捕まえて、ベランダにでてパッと手を離しました。でも、蝶は飛ばなかったんです。」
「?」
「潰しちゃってたんですよ。わたし。わたしが、殺したんです。それからですかね、いろんなものが音を立てて崩れはじめたのは。でもそれは例えば、今日の雨のようにどうしようもなかったんです。時間はどんなことがあっても戻りませんから。それが――理由ですかね、ここで働いている理由」
 そう言ってみゆきは、月のように微笑んだ。一鉄の背中を、寒いものが走り抜けた。しかし、それすらも呪縛のように一鉄には思えた。このみゆきという人物の深いところを知れば知るほど、縛られるんだと。
 決してみゆきは男を縛らない。けれど彼女に<恋>をする男は大勢いて、その誰もが、<恋>に縛りつけられていた。
 雨はまだ降っている。

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