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地球は彼女を飾って【小説】最終話

 それから、彼女はその部屋で暮らし、訪ねてくる男の相手をすることで生計を立てていた。一年が経つころ、彼女は常連の男にこう言われた。
「ぼくは君のためにつばさになる。こんな仕事はやめて、ぼくのところへきてくれ。」
 優花は、しばらく戸惑ったが、縦にうなずいた。
 こうして彼女は身請けされ、男の住むマンションで暮らすようになった。国籍も、ビザも、なにもない。その街のだれも、彼女を知らない。
 ある日のことだった。すこしこぶりの段ボールが届いた。宛先を見ると、“張”と書いてあった。驚きはしたが、彼女は怖いとは別に思わなかった。ただ懐かしいあの日々がよみがえってきた。
(なんだろう…。)
 中からはつぼがでてきた。開けると、白い粉が半分くらい入っている。しかし、薬物の類ではなかった。手紙も出てきた。書いてある内容を読んで、優花は、十分ほど泣いた。内容は、まず優花を追ってはいないことが書いてあった。そして、張が優花のこれまでの顛末を知っているということが書かれていて、最後に、つぼに入った白い粉は、トニーの骨だということが書いてあった。
 トニーは優花と別れてから張の下で働いていたが、ヘロインにはまって骨もスカスカになって、だれにも看取られずに死んでいたのだ。
 優花は、旦那の部屋に入り、引き出しから彼が隠していた名前も知らないヤクをとり出して、トニーの骨と一緒に鼻から吸いこんだ。
 ベランダに出る。空がだんだんと夜のベールをかけはじめ、街に明かりが灯りはじめていた。
(よかった…。これで永遠だ。)
 優花はもう泣かなかった。ただ、この日の夕焼けを、いつまでも覚えておこうと思った。この島にミサイルが落ちる日まで、地球は彼女を飾って。

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 さて、長いことお付き合いいただきましたが、いかがでしたでしょうか?実はこの作品は自分が小説家デビューする前の作品です。当時はこの長さの小説を書くのも大変でした。つたない文章ではありますが、ありありと”自分の書きたいこと”が見えてていいと思い、アップしました。ぼくの本気の文章は、書籍のほうで、アマゾンからでも買えますが書店でも、時間はかかりますがお取り寄せできます。よろしければ、ぜひ。

 これからもnoteに小説を随時アップしていきます。よろしくお願いいたします。

                          湧上


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Asha Wakugami
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