レモネード【小説】第7話
るねが教室にはいると、遠巻きに観察する視線を感じた。視線の先にいたのは、美里だ。つくえにマジックで落書きされている。なにも言わず、美里は席に座っていた。
――救いの、ヒーロー。
なぜか、るねは無性に腹が立った。いじめっ子と、美里に。るねは自分の席にカバンを置くと、水飲み場でバケツに水を溜め、ふきんをとった。そして教室に戻り、美里の机を拭きはじめた。それがどれだけ危険な行為かも、るねはわかっている。いじめの対象が自分にも向くかもしれないのだ。しかし、――彼女の怒りは収まらない。
「美里、あんたも悪いよ。でも、こんなことするやつのほうがよっぽど悪い。あんたがいいなら、わたしを盾にしていいからね」
そう言われて、美里は泣き出してしまった。つまらない。シラケた。いい顔しやがって。そんなよどんだ空気が、部屋の四隅でとがっている。
「るね、最近あんた調子乗り過ぎじゃない?
あんたもハブるよ! どうなってもしらいい
からね」
半グレの女が声を上げる。
「おー、お前はハブにでも噛まれてろ」
聞き覚えある声。るいはふり返った。そこには、学生服に身を包んだアシュレイがいた。
「アシュレイ! どうしたの?」
「今日から登校しないと、中学留年しちゃうみたいで」
見たことのない異国の少年の登場に、クラスがざわつく。アシュレイは、るねのふきんをとって美里のつくえをゴシゴシ拭きはじめた。るねは泣きそうになりながら、アシュレイにローキックした。
「いってーなー、なんだよ!」
「あ、んたねー。こわ、かったんだからね」
るりは泣きじゃくっている。いじめっ子軍団はしけたような顔でその様子を遠巻きに見ていた。
「悪い悪い。でもこのアシュレイ様がきたからには鬼に金棒だろ?」
そうだよ、あんたは救いのヒーローなんだから。るねは言えなかったが、そう思った。
○
「るね、おはよー」
「おはよう、美里」
美里は、あれからふたりとつるむようになり、意外とネアカだった。三人は学校で『仲良し三人組』なんて言われている。
「今日で中学も卒業かー」
「早いもんだね」
「るね、本当にいいの?」
「なにが」
「アシュレイに告白しなくて」
るりは思わずのみかけていたレモネードを吹き出しそうになった。
「げほっ! な、なんでそうなるのよ」
「ふたりが想いあってるのは丸わかりなんだけどなー。お似合いだと思うし」
「お似合い? わたしとあいつが?」
冗談、とでも言いたげにるねは吐き捨てた、
あれから卒業までの一か月。るねと美里はアシュレイに守られて、いじめっ子も手が出せなかった。アシュレイも思い残すところはない、といった感じでとくにクラスのほかのひととは喋ってはいなかった。
『卒業証書、授与』
この中学では卒業生に、みんなで『○○おめでと―!』と叫ぶのが慣例になっている。しかたなく声をあげるるね。最後の生徒は、遅刻したアシュレイだった。
だれも、声を上げない。
るねは立ちあがった。
「アシュレイ! 卒業おめでとー!」
アシュレイはシーグラスの目を丸くして、笑い、全校生徒の前で、卒業証書を破って見せた。後輩女子の黄色い悲鳴が会場に響きわたる。
「かっこいいぜー!」
るねの言葉に、教師に連れて行かれるアシュレイは背中越しに手をあげて返事した。
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