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カリフォルニア・ドリーミン。【コラム】
ヒップホップ界は広けれど、人気と実力が兼ね備わった男は少ない。今日紹介するのはムービースターでもあり、多彩な話術とアイディアで東西抗争の時には“ギャングスタ・ラップ界のゴッドファーザー”と呼ばれた、最も人気と実力のあるラッパー2pacについて語っていこうと思う。
まず彼の出生に焦点を当てよう。時はブラックパンサー党が現れ、人種差別に反対する気運が高まっていた時代だ。彼の母親、アフェニ・シャクールは党内にまだあった性差別の壁を越え、初の女性幹部となった人物だ。彼女はその時拘置所におり妊娠していた。庁舎への爆破予告と余罪で求刑は300年。しかし、彼女はこの法廷闘争に勝利し無罪を勝ちとる。黒人の女性が、弁護士なしで争った。それがどれだけのことか想像してほしい。その時お腹にいたのが2pacである。
トゥパック・アマルは古代インカ語で「輝ける龍」知性や戦士を司るとされている。インカ帝国最後の王と同じ名前だ。家族構成は母親と妹の母子家庭。実父はビリー・ガーランドだが育ての親はムトゥル・シャクール。ストリートのギャングだった。金だけ渡してすがたを消した。
子育ての面白いところは洗脳にも近いところである。
賢い女性であったアフェニはトゥパックに新聞を読ませ、しっかりしつけていた。政治や人権に、この頃から植え付けられていたものがあったのだろう。母親はクラック中毒に陥るが、周囲の大人たちが働きかけてくれたこともあって彼と妹は素直に育った。
高校に入ると、演劇にハマる。彼はシェイクスピアが友人だと語り、俳優デビューはなんとあのアポロシアター。「一粒の黒いプライド」のトラヴィス役を演じた。幕が上がると金やセックスになんか比じゃない興奮が襲ってきた、とのちのインタビューで語っている。
高校にはウィル・スミスののちの奥さん、ジェイダ・ピンケットもいた。ジェイダとパックは仲が良く、彼はこころの深い部分で通じあえた、親友だと語った。
「ジェイダは俺の魂の一部。彼女になら心臓も捧げるね」
しかし、気に入っていたそこでの暮らしや演劇を突然やめることになった。家庭の事情(母親の都合)でアフェニに半ば家を追い出された。そしてMC ニューヨークと名乗り参加した詩のワークショップで出会ったレイラにオーディションを持ちかけられる。Shock g率いる(鼻メガネをかけた、ファニーなラッパー)デジタル・アンダーグラウンドに加入。最初は金稼ぎでやっていたラップが認められたのだ。それから曲をつくりツアーの日々。〈s ame song〉や〈brenda‘s got a baby〉などの名曲がある。そのソロのデモテープをインタースコープ(レコード会社)の億万長者テッド・フィールドの娘さんが気に入り、契約を交わす。
映画〈Juice〉の話も忘れてはいけない。大役だった。これにより世間の2パックのイメージ像がついたと言っても過言ではないだろう。撮影後もビショップ役が抜けなかったと語っている。
この頃から2パックはメディアへの露出が増え、その持ち前の陽気さと減らず口でスターへの階段をのぼりはじめる。
しかし、世の中はあまりうまくいかないものである。2パックだけでなくラップ・ミュージックが低俗だという声明が副大統領をはじめ、政治家、黒人女性会議からも出された。
「銃があふれている街中で“撃て”と叫んでいる」
確かにそうかもしれない。危険かもしれない。しかし飢えも限界が過ぎるとこうなる、とも2パックが語っている。捨てるほど食材の余るホテル。毎日なにか恵んでもらおうと、ドアをノックする。しかし、彼らは食べ物などない、という。そこで歌がはじまる。歌はメッセージだ(これは追記する)。
最初の数日。 お腹ペコペコ。どうか中にいれて。
一週間。 腹が減った。食べ物がいる。
二週間。 食べ物よこせ!ブチ破るぞ!
次の週には中でぶっ放してるぜ。彼はそう論理的に説明した。これはゲットー(貧民街)育ちの彼の性分なのだろう。
2パックは女性好きだ。そしてトラブルを起こす。ファンであったある女性が望まない性的接触があったとして訴訟を起こしたのだ。当時2パックはクラブに顔が効くやつ。金があるやつ。ハッパ持ってうやつ、誰彼かまわず部屋に入れていたそうだ。
もちろん2パックは猛抗議する。「なぜおれが?」「2パックだからだ」「目の敵にされている」「これはおれの裁判ではないタトゥーだらけのサグ(極道)ラッパーの裁判だ」と語っている。世間にとって悪夢の存在である男の裁判だと。そこに正義などないと。
それが、引き金を引かせたのかもしれない。
2パックは何物かに襲われ五発の銃弾を浴びた。一発でも命に関わる衝撃を五度もくらったのである。なんとか一命はとりとめたが、これがのちに大きな事態へ発展する。
医師の命令に反して退院した2パックはアナルセックスについては不起訴となるが、臀部への不正接触で凶悪犯の収容所へ送られる。(明らかに私情の入った判決である)。アルカトラズでの生活でかつての親友ビギーの曲を聴いた2パックは襲撃の事件現場にバッド・ボーイのメンバーと一緒にビギーがいたことに勘繰り、襲撃事件の黒幕はビギーだと考えるようになる。
刑務所の中にいてビルボードのチャートは1位。保釈金は140万ドル。彼に払えない
額ではなかったが、資金調整がうまくいかず、獄中生活は続いた。そんなある日、刑務所の中で囚人が殺される事件が起こった。ここにいては危険だ、そう感じた2パックはギャングスタのシュグ・ナイトが代表を務めるレーベル、デス・ロウと契約し、保釈。2パックは復活することになる。
2パックは敬虔なキリスト教信者でもあり、「gods hands」(神の手の内))という言葉を」よく使う。そこに運命論者的な考えがかいま見えるが、このシュグとの契約は運命の分岐点で、自ら引き寄せたものなのではないかと思う。それが彼にとってどんな結末を迎えるか知らずに。
復讐心に燃えた2パックは〈California love〉で再ブレイクを果たし、〈Hit em up〉などディスソングをリリース。ヒップホップシーンは東西抗争に発展する。「誰かが殺されて、責任を感じても止められなかった」と2パックは語っている。このころには2パックはブチギレ暴走男になっており、親友ジェイダの言うことも聞かなかった。
そしてついに、1996年9月8日。親友マイク・タイソンの世界戦後。カジノで仲間のチェーンを奪ったとしてクリップスギャングのオーランド・アンダーソンに暴行を加えた後、クラブに移動する際だった。
ラスベガスの空に銃声が響いた。
偉大なラッパーのひとり、2パックは25歳の若さで天に召された。
彼は最後まで闘った。不条理や誤解と。そんな彼が死んで二十五年になる。世界はすこしでも変わっただろうか。最後に彼の名曲〈change〉の一節を紹介して締めさせていただく。
何も変わらない 朝起きて自分に問うんだ 生きる意味なんてあるか? 自殺するべきなんじゃ? 貧乏はうんざりだがおれは黒人だ 胃が痛い だからひったくる財布を探すんだ サツは黒人を見張り 引き金を引いて殺せばヒーローさ 「子どもにクラックをあたえたからってなんだよ?」「生活保護をむさぼる口がひとつ減るじゃないか」 ヤクを渡し兄弟同士で取引させ 銃を渡し、殺しあうのを眺めるのさ 「今こそやり返す時だ」と言ったヒューイは 暗闇で二発の銃弾を受けて死んだ おれは兄弟を愛してるぜ だがおれたちはどこにも行けないんだ 互いの共有なしではな 変化が必要なんだ 兄弟として見てくれよ 見知らぬひとじゃなくてさ そうでなくてはいけないんだ 仲のいい兄弟を拐う悪魔がいるか? 遊んでた子どものころに戻りたいよ でも物事は変わる、そういうものさ
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