コザの夜に抱かれて 第18話
木曜日。みゆきはまた病院にきていた。いつも通り、採血とエコーをすませ、待合室で音楽を聴きながら、本を読む。ガチマフの<七福神>が大ぶりのヘッドフォンから流れている。
待つこと一時間。梨木香歩の<西の魔女が死んだ>を読み終えたころ、看護師が声をかけてきた。
「○○さん。101です。どうぞ」
「はい」
カバンに本をしまい、アイポッドの曲をとめ、ゆるんでいた黒のコンバースの靴紐を結んで、診察室に向かう。
「おはようございます。教授」
「うっせーよ風俗嬢。座れ」
そう言われて、みゆきは丸イスに座った。真由美は、すこし口ごもりながら言った。
「率直に言えば、まだ問題ないね。数値もそこそこ」
「そうですか」
「ただ、安心しないで。酒はやめるのよ。」
みゆきはなにも応えなかった。はあ。真由美がため息をつく。それからみゆきの話を聴きながら、パソコンに向かい、カタカタとキーボードを打った。
「――だから、今日からちょっと点滴注射、するから」
「注射、ですか」
「最初だから四本打つけど、よくなってきたらだんだん減らすから。あ、このあと車とか運転する予定ないよね?」
「はい」
「じゃ、大丈夫だと思うけど、打ち終わってから一時間は病院内にいてよね。」
「わかりました」
「つらいと思うけど、がんばりな」
ようやくパソコンを打つ手を止め、みゆきを見た。
「いつも、ありがとうございます」
みゆきは深々と頭を下げて、診察室をあとにした。真由美はため息をつきながら、またパソコンをいじっていた。
再び待合室で待つこと十五分、救急患者を寝かせる部屋に、みゆきは呼ばれた。空気が重く、どんよりしている。横になって待つこと十分カートを押して、看護師がやってきた。銀色のパレットの上に黄色い液体の注射器が二本。透明のが二本ある。
「アルコールでかぶれたりとかはないですよね?」
「はい」
管のある針を刺す。そして管の先のキャップを外し、針のない注射器がその先端にさされる。その液体がみゆきのからだに流れこんでいく。みゆきは、一瞬腕が冷たくなるのを感じた。四本打つのに、五分かかった。
受付にもどり、すこしまどろみながらTVを見ていると、肩を叩かれた。誰だろうかと思いながら、みゆきが振り返ると、私服姿の真由美が立っていた。
「うち、もうあがりだけど、一緒に帰る?」
「本屋に、寄りたいんです」
「いいよ別に。待っててあげる」
「ありがとう」
みゆきはにこりとした。すこしこっぱずかしくて、真由美は顔を背けた。
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