地球は彼女を飾って【小説】第六話
自由の国が、とある島国の南の領土を占領しているという話は、優花でも聞いたことがあった。それを話したのはトニーだ。
自宅のアパートの階段をのぼりながら、優花はそんなことを考えていた。
「ただいま。」
「おかえり。優花。」
優花はしおらしい目をして、トニーの前にひざまづいた。そして、仕事場にきたなぞの男との顛末を話した。それだけで、トニーは傷ついた顔をした。なんだよ。そんなことあるわけないだろ。トニーは内心そう思った。しかし、“自由の国”に魅入られてしまった優花は、どう言われても自分の意見を曲げる気はなかった。
「いいよ!別に!」
トニーが叫んだ。優花を突き飛ばして、彼女のカバンを探る。
「なにしてるのよ!」
「金だよ!金がいるんだ!」
優花がはっとなってつくえを見ると、すり鉢とストローと白い粉が見えた。
「あんた!なにやってるの!」
そんな言葉を振り切って、トニーは射られた弓のように家を飛び出した。ひとり残された窓の外には、しんしんと雪が降っていた。
優花は、静まり返った部屋に取り残された。そのとき、彼女の腹がなった。そういえば、いつからなにも食べてないんだろう。優花は冷蔵庫を開けた。中にはあまり使われていない調味料と、すこし古くなった食パンしかなかった。彼女は、―そんな気持ちではなかったけど―空腹に負けて、パンを手に取った。ひと口目を食べると涙が出てきた。
人生の味がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
書籍ではぼくの本職でもある小説家としての一面が見れます。沖縄県内書店では沖縄県産本コーナーにて。内地のかたは全国の本屋さんで取り寄せが可能で、ネットでもお買い上げいただけます。【湧上アシャ】で検索してください。
『風の棲む丘』ボーダーインク刊 1200円+税
『ブルー・ノート・スケッチ』ボーダーインク刊 1200円+税
『ぼくたちが自由を知るときは』ボーダーインク刊 1200円+税
ついでに、アートから地域の情報まであつかう、フティーマ団いすのき支部のゆかいなラジオ、『GINON LAB』こちらもよろしく。
FMぎのわん79.7 『GINON LAB』毎週土曜日16時半~17時
――――――――――――――――――――――――――――――――――