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地球は彼女を飾って【小説】第六話


 自由の国が、とある島国の南の領土を占領しているという話は、優花でも聞いたことがあった。それを話したのはトニーだ。
 自宅のアパートの階段をのぼりながら、優花はそんなことを考えていた。
「ただいま。」
「おかえり。優花。」
 優花はしおらしい目をして、トニーの前にひざまづいた。そして、仕事場にきたなぞの男との顛末を話した。それだけで、トニーは傷ついた顔をした。なんだよ。そんなことあるわけないだろ。トニーは内心そう思った。しかし、“自由の国”に魅入られてしまった優花は、どう言われても自分の意見を曲げる気はなかった。
「いいよ!別に!」
 トニーが叫んだ。優花を突き飛ばして、彼女のカバンを探る。
「なにしてるのよ!」
「金だよ!金がいるんだ!」
 優花がはっとなってつくえを見ると、すり鉢とストローと白い粉が見えた。
「あんた!なにやってるの!」
 そんな言葉を振り切って、トニーは射られた弓のように家を飛び出した。ひとり残された窓の外には、しんしんと雪が降っていた。
 優花は、静まり返った部屋に取り残された。そのとき、彼女の腹がなった。そういえば、いつからなにも食べてないんだろう。優花は冷蔵庫を開けた。中にはあまり使われていない調味料と、すこし古くなった食パンしかなかった。彼女は、―そんな気持ちではなかったけど―空腹に負けて、パンを手に取った。ひと口目を食べると涙が出てきた。
 人生の味がした。

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Asha Wakugami
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