地球は彼女を飾って【小説】第七話
「やあ。顔を出してくれたってことは、決意したのかな?」
街はずれのいつものバー。優花は昨日の男と会った。
「あたしだって、普通の暮らしがほしいの。」
バーのマスターに聞かれたらまずいからと、男は優花を外に連れ出した。風が冷たいが、優花は心地よく感じた。今のあたしの気分にはぴったりだ、と。
「本当はおれがつきそってあげたいんだけど、知り合いが亡くなってね。どうしても葬式に出なくちゃならないんだ。明日にはおれも行くから、先に行って待っててくれないか?」
優花は昨日あったばかりの男とは思えないほど、彼を信用していた。いや、すがっていたのだ。ここから出してくれるだれかを、彼女はずっと待ち望んでいたのだ。
車に乗せられる。しばらくドライブだから。男が言う。優花は気が抜けて、車の助手席で、窓ガラスにひたいをこすらせながら眠った。
港についた。そこには、優花と同じぐらいの年ごろの女が集められていた。大きなマグロ漁船が泊まっている。優花はさすがに不安を覚えたが、もう引き下がることはできなかった。暗い船内に乗り込む。しばらくすると、船は動き出した。
(さよなら、トニー。)
優花は、誰かが回してきたシンナーを吸って、涙をこらえた。
船は、大きく揺れていた。
目を覚ます。外に出る扉から、光が漏れている。優花は飛び起きて、階段をのぼった。
(ついたんだ。)
青い海。緑に彩られた街並み。そこは、かつてトニーが話していたように、優花には楽園にも見えた。コートは、いらなかった。港につくと、みんな降ろされる。知り合いを見つけて、抱き合っているひと、再会に涙しているひとがいた。優花はあたりを見渡す。すると中年の背の男が声をかけてきた。
「あなた、剛優花でショウ。」
片言の中国語。どうやら、彼についていけばいいらしい。優花はすこし安心した。男が、堅気の感じがしたから。
「お世話になります。」
「車、こっちネ。」
いわゆる“アメリカ車”に乗せられた。優花は男にせかされて、化粧をした。
(なんなんだろう。なにかあるのかな。)
「疲れたネ。これ飲んで元気だすといいヨ。」
男がふたの開いた缶コーヒーを渡す。優花はそれを飲んだ。それからぼーっと街を見ていると、なんだか眠くなってきた。
「寝てもイイヨ。ついたら起こすカラ。」
しだいに優花は街の残像を追えなくなって、その瞳を閉じた。
彼女は天使の夢を見ていた。自分に白い翼が生えて、自由に大空を飛ぶ夢。しかし、高く飛べば飛ぶほど羽は散って、やがて地に落ちた。そして、彼女は目を覚ました。
プロペラのついたライトが見えた。起きてあたりを見渡す。どうやらモーテルのような場所だった。時計を見た。もう何時間も経っている。窓の外を見てみた。眼下にはまだ明かりのついた民家が見える。その街のだれも、彼女を知らない。
すると、ドアが開いた。彼女は彼か、さっきの男が入ってきたのかと思った。しかし、その予想は大きく外れていた。
すらっと背の高い、軍服を着た青い目の白人男性だった。
彼女は気づいた。ここまできてしまったのかと。なにかの線が切れて、彼 女の思考は停止した。無抵抗な彼女を押し倒す男。もう、涙は出なかった。
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