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銭湯へ急ぐ妊婦

私には子供が3人いるのですが。

これは今から12年前の、三男を出産した時の話です。



その日は出産予定日の2日前でした。

朝から少しずつお腹が痛くなりだし、7時過ぎには陣痛が10分間隔位になっていました。

三人目なので早目に産まれるといけないと思い、子供達を義母に預け夫と二人で産婦人科へと急ぎました。

10分間隔だった陣痛はみるみるうちに進み、病院に着いた頃には5分間隔位になっていました。

すぐに先生が診察してくれて「もう8cm位開いているから卵膜を切るね」と言って私の子宮に手をいれました。

先生がもの凄い勢いでグリグリと卵膜を切っています。

もの凄い痛みが私を襲い「いたーーーーーーいっ‼️‼️‼️」と叫びますが、先生は勿論やめません。

あまりの痛さに先生に殺意さえ抱く程です。

グリグリする先生、殺意を抱く私、両者一歩も譲らない状態が続き、卵膜を切る作業は終了しました。

先生が去った後、あまりの痛さに夫に腰をさすってもらったのですが、さすり方が弱いので「もっとー!もっとーー!もっーーーとぉーーーっ!」と夜っぽい声をあげ、夫に懇願していました。

痛みはもう最高潮です。

陸上で言えば第4コーナーを曲がりきった所、限りなくクライマックスへ近づいている状態です。

ビックウェーブが容赦なくおそってきます。

それでもまだ痛みが弱くなる瞬間があり、分娩室に行くなら今しかないと思いナースコールしました。

すぐに来てくれた助産士さんに状況を説明し、分娩室に行きたいとお願いしました。

先程卵膜を切った時下着を脱いだのですが、もの凄い痛みが襲っていたのでその後も下着ははけず、下はスッポンポンの状態でした。

その姿を見た助産士さんが
「この部屋で下着をはいていきますか?でも分娩室で又脱ぐのでタオルを巻いていきますか?それとも・・・・」

とチンタラ説明しているので

「タオルでいいですっ🔥🔥
と言い、助産士からタオルを奪い腰に巻き付けました。

さぁ!
陣痛が弱い今、自力で分娩室へ行かなければなりません。

私の部屋から分娩室までは20メートル位あります。

私はみずから部屋の扉を開け分娩室を目指し、競歩選手バリに歩き出しました。

腰にタオルを巻き付け、分娩室一点を見つめ、血走った顔で歩いている私の格好はまるで、銭湯へ急ぐ妊婦です。

後ろからは、私のパジャマを抱えた助産士さんがおいかけてきます。

その様子はまるで、やんちゃな姫をおいかける女中のようです。

もの凄い速さで分娩室へ到着し、妊婦とは思えない軽やかさで分娩台へ登り
足を自ら開き
「うぅぅおーーーーーーっ🔥🔥🔥」と叫びました。


先生が卵膜を切ってくれたお蔭なのか、分娩台に上がってからはずか10分で赤ちゃんが産まれました。


いっそ気絶してしまいたい位痛い出産でしたが、無事産まれてよかったです。

大仕事を成し遂げた私の横で、感動に目を潤ませていたのは旦那。

私はどうやら出産が早いのか、いつも旦那が間に合わず、三男出産時に初めて立ち会えました。

「臍の緒を切って下さい」と助産師さんに言われ、ブルブルと震えた手で臍の緒を切ってくれた旦那。

旦那に臍の緒を切られた三男は今12歳。

臍の緒を切ってくれた恩なのかパパ大好きっ子で、パパ大好きなまま思春期を迎え、大好きなまま地味に反抗してる毎日です。

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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