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うるしクイズ 「漆を溶かすものは?」

漆器「めぐる」をお迎えいただいている皆さまにお知らせしている「とつきとおかメール」のコンテンツ、楽しみながら漆の知識が増える「うるしクイズ」です。

知っていても特に役に立たないけれど、知っていたら少し漆器の見方が変わるかも!?そして、もしかしたら誰かに話したくなるかも!?そんなクイズをご用意しました。是非チャレンジしてみてください!

今回の問題はこちら・・・

漆は硬化するととっても強力な塗膜を形成しますが、そんな(硬化後の)漆を完全に溶解or分解することの出来るものは、次のうちどれでしょうか?

①塩酸・硫酸

②ガソリン

③日光(紫外線)

④海水(塩分)


答えは

③日光(紫外線) です!


<解説>

実は、漆は一度固まってしまうと溶かす溶剤はないと言われています。

①の塩酸や硫酸に浸しても溶けません。(実験によっては多少漆器の表面が荒れることはあるそうですが、完全に溶かすことは出来ないそうです。)

②のガソリンやアルコールなんかは、漆器表面の汚れ落としに使われるくらいなので、へっちゃらです。

④の海水に至っては、1年半海の底に沈んでいた漆器がそのままの姿で引き上げられた逸話(明治時代にパリ万博出品の帰りに貨物船が座礁し1年半後に引き上げたところ漆器は傷んでおらず当時の外国人を驚かせたという「ニール号の漆器」という話が残っています)があるくらいなので、海水にも強いことが分かっています。

よく、「(ウレタン塗装などの)化学塗装と漆ってなにが違うの?」と聞かれることがありますが、この「耐腐食性(耐薬品性)」の強度(塗膜強度にも、たわみ性 ・耐衝撃性 ・耐摩耗など様々な尺度があります)においては、漆は圧倒的にすごい力を持っています。
例えば、ウレタン塗装の器をガソリンで拭いたら、一気に劣化してしまいますよね。

そんな漆も、お日様の力(紫外線)で劣化していきます。

紫外線により漆の分子構造が分解されていくので、まるで塗膜が消えていくようにカサカサの表面になっていきます。(なので、日光東照宮などを代表とする漆塗りの寺社仏閣などは定期的に塗り直しが必要になります。)

普段お使いになる漆器も、短時間なら平気ですが、長時間日の当たる場所に置いていくと、いつの間にか表面の艶が消えて変色しているということも起きますのでご注意くださいね。特に、ご自宅ですと、日当たりのいい窓際などに置いておくことは避けてくださいね!


<さらに豆知識>

日本各地で、縄文時代など数千年前もの漆製品が出土していますが、これも上に書いたことにその秘密があります。

日本は、一般的に酸性土壌です。
ですので、土に埋まったものは、基本的に長い時間のうちに溶かされて消えていってしまいます。

ですが、漆というのは、紫外線に当たらない限りは、強い耐腐食性の力で姿を変えずに土の中で眠っています。そして、何千年も経った今、当時と変わらぬ色艶を見せてくれます。

縄文のタイムカプセル、漆ってすごいですよね。

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漆塗り注口土器(2018年「下宅部遺跡展 縄文の漆Ⅱ」にて貝沼撮影)

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通称「縄文ヘアピン」。僕が一番好きな出土品です。(2018年「下宅部遺跡展 縄文の漆Ⅱ」にて展示パネルを撮影)