小説【301字】肖像の迷宮
『肖像の迷宮』
私は、写真館でポートレートを撮ろうとしていた。
シャッターが下りる瞬間、眩い光が走る。
現像された写真には、知らない私が写っていた。
着ている服も、表情も、年齢さえも違う。
不思議に思い、もう一枚撮る。
今度は、また違う私が写っていた。
写真を重ねると、そこに物語が見える。
これは、私の別の人生なのか。
「目覚めの時です」
カメラマンが告げる。
写る姿は、年老いた私自身だった。
「これは全て、あなたの可能性」と語りかけられた。
「無限に分岐する人生の中から、一つを選びなさい」
私は誰なのか。
カメラマンが、最後の一枚のシャッターを押す。
その瞬間、全てが光に溶けた。
手の中には、見知らぬ私のポートレートがあった。