小説【293字】逆映する世界
『逆映する世界』
都心の雑踏。私は足を止めた。
水たまりに映る空が、暗闇に変わっていく。
周りを見回す。誰も気づいていない。
私だけが見えるのか。
恐る恐る水面に触れる。
すると、体が吸い込まれるように沈んでいく。
目を開けると、そこは逆さまの世界。
建物は天井から生え、人々は逆立ちして歩く。
私だけが『正しい』向きで立っている。
だが、周囲の人々は私を奇異の目で見る。
「あなたもようこそ」誰かが話しかけてくる。
振り返ると、逆立ちした私自身がいた。
「これがあなたの本当の姿」そう言って微笑む。
私は誰なのか。これは現実か、水面下の幻か。
選択を迫られる。上の世界か、下の世界か。
真実を求め、水面に手を伸ばす。