国立の3月を僕は知らなかった
国立(くにたち)の3月を僕は知らなかった。
新宿区にある大学は長い休みの期間で、その時期はいつも郷里でバイトをしていた。
同好会にも入っていなかったし、大学の友人の多くも帰郷していた。
国立の3月はどうだったのだろう。
そう言われてみれば、8月だって僕は知らなかった。
多摩の夏は暑くて、エアコンなどあるはずもない下宿にはいられなかったのだ。
2月は少し知っている。
雪が降ると飽かずに2階の下宿の窓から眺めていた。
一橋大学のキャンパスを近道にしていて、霜柱を踏んで歩いた。
あの頃は、キャンパスを簡単に通り抜けることができたのだった。
国立の早春を僕は知らなかった。
今あの頃に戻れれば、多摩で何かバイトをして過ごしたであろうに。
国立の3月、国立の早春を知っていれば、何かが自分の中に加わったかもしれない。
そう思うと、いささか残念ではある。
その頃はそんなこと思いもしなかったのだが。
国立の3月を僕は知らなかった。
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