連休巡礼(5)
連休巡礼も、はや5日目。5月6日早朝、精進湖の県営駐車場で目覚めたわれわれは、トイレに行きがてら、朝4時40分頃の富士山を見る。
ほどなくして日が昇る。県営駐車場で車中泊をしているのはわれわれだけらしい。
標高900mあることもあって、そこそこ冷え込んでいる。空気がきれいだ。周囲の低い山々の新緑も美しい。
車内を移動モードに転換し、朝食をゆっくりととっているうちにもう時間は10時を回った。目当ての本栖湖キャンプ場はいちおうのチェックアウト時間が12時だ。なので、まだキャンプ場内は多少混んでいるだろう。明日からは雨になるので、午後にはガラガラになるはずだが。
しかし、日の当たる車内でずっと待っているのにも飽きたので、11時頃に本栖湖キャンプ場に移動してみる。チェックインを済ませる。場内に車で入ってみると、一番お気に入りの場所にはやはりまだ先客がいる。
そこで奥の方に行った。ここもなかなか悪くはないが、水場までかなり距離があるのが難点だ。ここで店開きしようかどうか思案する。店開きといっても、タープやテントを広げるわけではなく、テーブルと椅子を出すだけなんだけどね。
待機していると、一等地のパーティが片付けを始めた。しめた、というわけでそのまま遠目に観察しながら待つ。小一時間ばかり待ったところで、先客は車で出発して行った。それ、とばかり空いたスペースに車を入れる。
ここは水場が目の前で、トイレにもさほど遠くはなく、広葉樹が多いところなのだ。倒木が心配される老木の類もない。早速店開きをした。
もう12時を過ぎているので、だいぶ空腹である。当初はせっかくキャンプ場に入ったのだからメシを炊こうと思っていたが、無洗米を水浸する時間がかかるってことで、手早く食べられるパスタにした。
昼食を済ませて人心地ついたところで、売店に行き、牛乳と菓子を買って帰る。本栖湖キャンプ場で売っているビン入りの牛乳は1本150円だが、とても旨いのだ。かみさんはそれでいつもミルクティーを淹れている。
双眼鏡をテーブルの上に出しておいて、バードウォッチングもスタンバイだ。加子母でもモズを見たけど、本栖湖ではヤマガラとシジュウカラを見ることができた。あとでコゲラを見ることもできた。
キャンプ場とくれば焚火であるが、今回は車中泊での滞在が旅のメインということもあって、かさばって重いスノーピークの焚火台(M)は持参していない。小さなネイチャーストーブを取り出して、焚火の気分だけは楽しむことにした。
友人が亡くなっていたことを知ったのは2月15日。それから初めての野営をした。以前にもそういうことがあったが、人が亡くなったときからそれほど日を置かない野営では、特別な気分になる。
火を見ることが切ないのだ。それは浄火でもあるが、別れの火でもある。命が燃え尽きるような哀しみの象徴でもある。
われわれが入ったキャンプサイトには、誰かが集めた小枝の山がそのまま残されていた。それを使わせてもらって、ネイチャーストーブで小さな焚火をした。
燃え尽きる小枝を見ていると、なぜそんなにも早く逝ってしまったのだろうかという思いがこみ上げてくる。
哀しみは、理屈では癒やせない。そして火は揺らめき、何かを語ろうとしているようにも見える。私は次から次へと小枝を火にくべた。
強い風が吹いていて、炎はときおり吹き上げるように立ち上がった。あとには白い灰が残った。けれども、さよならは言わない。
あなたは亡くなることでむしろ不死の人になったのだから。
焚火をしているうちに夕刻が近付いてきた。今度こそメシを食べるぞということで、飯田で買い込んできた無洗米の封を切って、2合分を計り、3合炊きのメスティンで水に浸ける。
1時間ほど冷やしたところで時刻は17時を回った。明るいうちに夕食を食べてしまったほうがあとが楽だろうということで、炊飯を開始するが、風が強く、火加減が難しい。
ストーブの火力が割と1点に集中しがちなので、メスティンの中央から炊けてくる感じなのだ。何回か蓋を開けて炊け具合を確認し、なんとか芯の残らない炊飯を遂行することができた。
外はまだ明るいが、ガスランタンのマントルが破れていないかどうか気になるので、ランタンの支度を始めた。暗くなってからだとマントルの交換はやりにくい。
さいわい、マントルは無事だった。早速点火する。周囲はさほど暗くないとはいえ、やはり明かりが灯るとほっとする。
炊き上がったメシを蒸らしているあいだに、汁とオカズの支度をする。まず湯を沸かし、次いでメスキットフライパンでスライスしたランチョンミートを炒める。これはキャンプのときの定番メニューなのだ。
やはり風があるので、火力の調節が難しかったが、なんとかあまり焦がさずにランチョンミートに火を通すことができた。フリーズドライの味噌汁にお湯を差し、ミックスビーンズを炊けたメシと合わせて完成。
食べ始めた頃、水場で会話を交わした隣のパーティの人が、お先に引き揚げますと挨拶に来てくれた。明日は雨になるのだから、無理もない。渋滞にならないといいですねと言い添える。
森の中は暮れ始めれば早い。コーヒーを飲んで一服しているうちに辺りは真っ暗になった。周囲のキャンプはごくごく少ない。明日、雨の中での撤収を覚悟している人たちだけだ。
われわれはテーブルと椅子と焚火台と食器食材関係だけとはいえ、これらも濡らすと厄介になるので、今晩のうちに片付けておくことにし、その作業を開始した。食材などは野生動物も来るので出しておくわけにはいかないのだ。
夜10時近くなった頃に片付けも終わり、今度は車の中に入って寝る準備をする。テントを設営しなくてもいい分、車の窓に断熱カバーを取り付けたり、カーテンを引いたりする作業がある。狭い車内でベッドメイクをするのもそれなりに難儀である。
そのうちにポツポツと雨が降り出し、寝入る頃には本降りになった。森の中なので、梢から垂れてくる滴の音がけっこう大きい。ほどなくわれわれは眠りに落ちた。