棚からカチコチのぼたもち
電車の扉のすぐ横に立っていた。
そしたら、急に頭に衝撃がきた。
何かと思ったら、男性の会社用カバンが棚から落ちてきたのだ。
『棚からぼたもち』ならぬ、
『棚からカバン』。
その衝撃に、
「あぁ脳に衝撃が…寿命縮むわ!」
と怒鳴った。
というのは嘘で、心の中で思っただけだ。
顔は一瞬崩れたものの、すぐ平常心。
何も言わず、持ち主の男の顔もほぼ見ていない。
何もなかったように、スマホを眺め続けた。
そう、驚くことが苦手なのだ。
いや、驚くのが苦手なのではなく、
驚くことをどう表現したらいいかが分からないのである。
怖いものは嫌いで、お化け屋敷は絶対入らない。どんな怖くなさそうでも、文化祭の催し物でも。
怖い思いをするのに、なぜお金を払わねばならないのか。全く、分からない。
そして、それと同時に『自分がどう驚くのか分からない』という別の怖さもあるのだ。
変な声が出るだろうか。
泣きわめくだろうか。
とも思ったが、きっとカバンが落ちてきた時と
同じように無言かもしれない。
心は怖いのに、
なかなか表に出ないものだ。
全く、残念なくらい可愛くない。
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