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眼球は美しい✨

10月に入ってやっと秋らしくなってきた。まだ夏の尻尾はチョロチョロしているけれど、朝晩の涼しさにホッとする。

8月の頭に右目に現れた黒いモヤモヤ。血止めの薬を飲んで様子見をしていたのだけれど、晴れるどころかどんどん霧が濃くなって、月末には全く見えなくなってしまった。
診断は「硝子体出血」。
「手術しましょう」と眼科のイケメンK先生。
眼球の絵を見ながら手術の説明。「麻酔の針をこのくらいまで」って、ひぇ~!
聞いているだけでもう痛い。
何度か手術は経験しているけれど、眠っている間に終わっている。1時間から1時間半かかるというのに、意識があるままだと聞いて正直ちょっとビビってしまった。
けれど見えるようになるためには仕方がない。頭の中で歌でも唄うか、お話でも考えながらやり過ごそうと思いながら手術の日を迎えた。

麻酔がかけられ着々と手術が進む。見えないのであまり恐怖は感じない。押されているような感覚だけが続く。

最初はこんな感じ

難聴気味なのでBGMは聞こえない。時々イケメンK先生が声をかけてくれる。
「大丈夫ですか」
「痛くないですか」
はい、はいと答えているうちに、景色が目まぐるしくかわりだした。明るくなったり暗くなったり、赤くなったと思ったら万華鏡のような模様が浮かんだり。
お!お~。うわ!
なんだなんだ!

少しずつ明るくなる

そのうちノズルのようなものが見えて、黒い雲を吸い込んでいき、視界がみるみる明るくなっていった。
うお~!
吸ってる吸ってる~。
掃除機やん。

最後はこんな感じ

途中、左利きのイケメンK先生の手が、私の低い鼻をぎゅうぎゅう押して痛いのなんの。
痛えよ、痛えよと思いながら、集中しているのに変な声を出して手元が狂ったら大変と、必死で我慢していた。

うすボンヤリした視界に縫っている様子の影が見えて、暫くすると「終わりましたよ」

ほぇ~。
なんだかあっという間で、歌だお話だなんて考えていたことなど忘れていた。
2024年小宇宙の旅って感じ。

ブラックペアンというドラマで、主人公の外科医の術後の決めゼリフに「心臓は美しい」というのがあった。
術後の診察時、イケメンK先生に聞いてみた。
先生も「眼球は美しい」ってなるの?
イケメンK先生のつぶらな瞳が、キラリンと輝いた。
「なりますよ。目ってホント綺麗なんですよ!」
その眼球愛に溢れた少年のような笑顔を見て、この先生で良かったと改めて思った。
でもね、先生。
鼻がめっちゃ痛かった。
「あ~!ごめん!集中しすぎてやっちゃうんだよね」
眼球愛溢れるイケメンK先生に、きゅんきゅん💓
フフフのフ💓

術後、出血を止めるために挿入された空気が浮かばないようにするために、暫く下を向いていなければならず、寝るのもうつ伏せで、トイレもいちいち看護師さんを呼んで車椅子で移動。うつ伏せ寝はあまりしないので、楽な姿勢を探して試行錯誤。
目の中の空気が自然吸収されるまでと聞いてはいたが、慣れない姿勢がしんどくてなかなか眠れない。
それでもこうして、辛いだなんだと言えるだけましだと、難病発症当時の、針の筵に寝ているような、身体中の痛みにただ耐えているしかなかった日々を思い出す。指先まで痛くてペンも持てず、携帯電話なんて触ることもできなかった。
そして思う。痛みや辛さを言葉にできず、泣くことしかできない子供達や、ベッドから離れられずに思いを発信できない病人に比べれば、こんな状態は屁でもないのだ。
うつ伏せでも携帯電話はいじれるし、無理をしなければ読書もできる。そして上げ膳据え膳先生はイケメン。
顔が少しくらい浮腫んだって、辛いなんて言ったらバチがあたるってもんだ。ねえ。

3日後に横向き寝がOKになり、上を向かなければ顔を上げていいことに。
あ~、なんて楽チンなんだ!
予定どおり1週間後に退院。
帰宅したら義妹からお米や野菜が送られてきていて、ありがたいのなんの。
義妹は手術の当日、命にかかわる手術じゃないからひとりで大丈夫と、夫も来ないのに駆けつけて来てくれて、手術が終わるまで待っていてくれた。不義理ばかりしているのにいつも気にかけてくれる。
感謝感激雨あられ。もうホント足を向けて寝られない。
横向きOK上を向くのはNG生活は暫く続いたけれど、視界は良好で夫は優しい。
フフフのフ💓

病院でぬくぬくしていたせいか、寒暖差不調ババァと化してしまい、家事をこなすのがやっとで、母のところへなかなか行けなかった。
入院中は、毎日ディサービスに行ってもらうことで心配せずにすんだ。そのうえ近所のYさんが気にかけてくれ、毎日のように母の様子をメールで知らせてくれた。
まさに遠くの親戚より近くの他人様々だ。

退院したからいつでも電話していいからと母に伝える。
「あんた、足は大丈夫?」
「目を手術したんだよ」
「え!大変だったねえ」
「行けるようになったら行くからね」
「うん。待ってるよ。大事にしなよ」
暫くして母から電話。
「足は大丈夫?」
「今回は目で入院したの」
「あ、そうか。大事にね」
どうやら母の脳ミソの隙間には、難病発症当時の、殆ど歩けなかった状態がインプットされたままらしい。
それだけ心配していたんだなぁと、鼻の奥がツンとなる。
暫くしてまた母から電話。
「あんた、足はどう?」
「ーーー」
わかっちゃいるけど、
お母さ~ん!
目、目、目だってばさ!

眼球は美しい✨

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