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視覚障害者式炊飯の極意

 家人に言われるまで、米を一合図る用のカップですり切りいっぱい水を入れれば、迷いなく美味しいご飯が炊けるということを知らなかった。

 かつて所有していた炊飯器の窯には内側に一合、二合、三合と指でさわれば分かる線が入っていて、そこぴったりに水を調整すればご飯が炊けていた。
 ところが、最近の窯にはほぼこの線がついていない。窯もだいぶ古くなり、さて買い換えるかという段になり困惑した。以後、我が家で家人か誰か見える者がそばにいない限り、独力ではご飯が炊けない事態に陥るからだ。
 そこで助け舟を出されたのが先の方法で、始めは半信半疑だったのだが、兎にも角にも信じなければ米が炊けない。家人が家を空け留守が長くなると、ストックの冷凍ご飯を自ら補充しないと毎日の飯がないので、いやでも一人でこなさなければならない。

 しかし、いざやってみると、この方法は福音だった。今まで、窯の線を頼りに水の量をああかこうかと調整して、満足いく炊き上がりになるのは三回に一回程度だったのが、このやり方に変えてから、ほぼ失敗なく毎回ふっくらご飯が炊けるようになったのだ。
 それは、窯を新しく買い替えたからだなどと、無粋なことを言ってはいけない。
 これは、毎回きちんと過たずに同じ水の量を入れられるようになった成果なのだ。

 今日も蓋を開ければ、三合のふっくらとした艶々ご飯が、今や遅しとよそわれるのを待っている。

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