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いばら道、舗装路

川崎、夏の終わり、暗い時間帯に妻と犬の散歩をしていた時、まだ新しいコーポの前を通りがかると、パジャマ姿の若い女の子とスーツケースを持った若い男が立ち話をしていた。二人とも20代中頃だろうか。

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女の子の方はシクシクと静かに泣いている。若い男の方はなぐさめるでもなく、立ち去るでもなく、スーツケースの横で力なくそこに立ち尽くしていた。

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(これは、同棲していたけど結局駄目になって、男がでていくシーンだね)

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耳がダンボになるぼくと妻、ボン!

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もう駄目なのかな私たち。なんとかならなかったのかな?

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あれだけ話し合って2人で決めた事だろう。お互いに自分の道を進もうって。

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そんな会話が聞こえてきそうで歩幅を狭めるが、犬は先を急ぎたくてリードをビーンと引っ張っている。ハッ、ハッ、ハッ

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近所を30分ほど散歩して、またさきほどのコーポの前を通ると相変わらず2人は小さな声で話し合っていた。夏の終わりの涼しい夜だった。近所からは夕ご飯のカレーの匂いが漂ってきた。

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人と人が出会う瞬間や別れる瞬間。

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一緒に歩いてきた道を

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「じゃ、おれはこっちに行くよ」

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「私はこっちに行くわ」

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出会っては別れまた出会う。

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そうやって進んでいくんだなぁ。しみじみ。あれ、おれの道、雑草だらけなんだけど、どういう事?おーい、こっちこっち。

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只野 漠
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