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誰のか何だか知らないけれど…  459

先日、久しぶりに大きな病院へ行った。
といってもお見舞いだから、わたしが緊張することなんて何もいらない。
いらないはずなんだけど…駐車場のゲートをくぐったあたりからジリジリと迫ってくるというか、押しつぶしにくるというか…微妙な圧迫感を感じていた。

最初は「緊張」とか「プレッシャー」と言われるものかと思っていたのだけど、何だかちょっといつものそれと違う感じが不思議だった。


病院の建物前にある駐車場、パッと見ほぼほぼ埋まっているようにしか見えないのだけど、わたし達がここに入れたということは…空きがあるということ。
ということで空きスペースはないか…と探しながら徐行する。

島の病院ではなかなか見ない、他府県ナンバーの車がいっぱいある。
島でもその名前を耳にしたことのある病院だったので、なるほどといえばなるほどの景色なのだけど。
だからかどうか、駐車場の車の出入り(入れ替わり)はそんなに頻繁じゃない。
様子を見ながら「待ってたら空くでしょ!」みたいなのを期待するところではなさそうだ…ということはわかる。
ということで、入り口からそこそこ奥の方まで進んだ場所に車を停めた。

中央玄関までの道を歩きながらすれ違う人はみんなパッと見元気そうな人ばかりのように見える。
みんなお見舞いの人…なんてこともないだろうけど。

隣に付属の学校があるからか、若者たちとも多くすれ違う。

「うん、病院っぽくないよね。見た感じそんな感じしないよ…」

そんな風に頭の中で言い始めるも、気づけば自分に息が入らなくなっている。
別に病院嫌いってわけじゃない、何なら色々観察する方なんだからこんな状態にならなくても…なんて思ってるうちに玄関が見えてくる。

「え…このタイミングでマスクかぁ…しんどいけど、しょうがないよねぇ…」なんて思いっきり息苦しさを感じながら、玄関に立って挨拶している看護師さんらしき人の視線を気にしながらマスクを装着。

玄関を入れば大規模な病院だからこその大きな受付ブース、自動発券の機械、パン屋さんにATM…「病院といえば…」の景色が広がっていた。


そのまま進んでいると、これから乗るであろうエレベーターの扉が見えてくる。
まっすぐそちらに進みながら

「今からそこかぁ…ちょっと乗りたくないなぁ…だからって『一人で階段使うからっ!』って10階まで登る元気もなぁ…」

なんて気弱な怠惰と緊張感がグングンに前に出てくる。


このままほっとくとちょっとしたパニックにもなりかねない…
「えーと、映画『プライベートライアン』みたいに内臓が出ちゃってる人もいない。何なら松葉杖の人も点滴してる人もいない。というか、ビジュアルで影響受けるタイプじゃないでしょ」
と自分に言い始める。

「うん、確かにその通り」

「じゃあ、この『うわぁぁ、嫌だー』って何が嫌なのさ?エレベーターの密室が嫌なの?でも、マンウォッチングとか楽しいじゃん?そんなこと考えてたら一瞬じゃん?何が嫌なの?っていうか、誰の嫌なの?」

そう、この「誰の」っていうワードはわたしにはしばしば効果的で。

自分からでも問われれば
「あ、そっか!わたし、怖くも嫌でもないわ」
と「わたしはどうなんだ?」と自分の体や気持ちを見直すきっかけになる。


そこで初めて「自分の矢印」が外へ向いていたということを実感する。
すぐさま冗談めかして矢印の回収をしてみると…本当にリールを巻くようにシュルシュルと戻ってくるから不思議なもので。
出ていく時、何の音も感触もなかったじゃん…なんてチクっと言ってみる。

この時点では「誰の」かは分からずとも「わたしのではない」ということが分かっただけで自分の中の流れが完全に変わり。
変わったのをいいことに
「こんな時だからこそ実験できるじゃん…」
なんて思いがむくむくと大きくなり
「『丹田に居る』ってどういう感じなのか。立って、大勢の人がいる中でできるのか。やってみよか…」
みたいなことをやり始める。

すると、さっきまで吸えなかった息はいつも以上にするすると吸い込めるし、「背中側?お腹側?」なんて息の通るルートをイメージしなくてもすでに下腹が膨らみ始めている。

ぐーっと自分の真ん中が生まれ始め「こんなに違う?」と思うほど安定感が増し始める。
誰に急かされたり責められたりしていたわけではないけれど、一瞬にして自分がどっしりと落ち着くのが分かった。

こんな状態が日常だったらどんなにいいだろう…

そんなことを思っていたら、乗るエレベーターが到着する。


結局、お見舞いが終わっても、その日が終わっても、あの緊張のようなもろもろは何だったのか?誰のものだったのか?もさっぱり分からないままなのだけど、「大勢の人がいる場所で自分の中の書き換えができる」ということが体験として分かったことはとても大きなことだった。

一人じゃないと…
静かな場所じゃないと…
集中できてないと…
時間がないと…

そのどれもいらなかったってことだ。


実践ってこういうことか…一瞬ってこういうことか…
でも、そこに行くのにあのジリジリ感はどうよ?

なんてゴニョゴニョやりながら、また一瞬の書き換えを狙いたいココロだった。




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