かわず、令和時代のラノベを読む。 ~Vエン感想~

※これはライトノベル「Vtuberのエンディング、買い取ります」の感想文です。
一部ネタバレがあるので未読の方はお気を付けください。

 僕は小学6年生の頃、4つ上の兄にお勧めされてライトノベルを読み始めた人間だ(唐突な自分語り)。

 時雨沢恵一の「キノの旅」第1巻を学校の道具箱に入れ、毎朝の読書の時間に読んでいた。当時はまだまだ子供で活字にも馴染みがなく、文字を追う事も一苦労だった。だがライトノベルには挿絵があったこともあり、精々コロコロコミックを読むしかしてなかった子供が文学の入門として手に取るには丁度良かったと思う。

 そこからはライトノベルの魅力に取りつかれ、中学に上がる頃にはずっぽりと沼にハマり込んでいた。
 当時お金のなかった私は少ないお小遣いを握りしめて近所の古本屋を渡り歩いた。
気になったラノベを片っ端から買い込み、本当に読みたいものだけ本屋さんで新品を買うようにしていた。
 部屋には300冊超のラノベがあり、自分の面白いと思った作品を見つけては押し付けるように友人に貸して読ませることをライフワークとしていた。あの頃布教した友人の多くは、今ではすっかりアニメ漫画大好き立派なオタクに成長してくれた。我ながら本当にいい仕事をしたと思う。
 今となってはもういい思い出だ。
 あと本棚の床板が抜けないか少しだけ心配だった気がする。今思えば住んでたところが比較的新しかったから杞憂だったとは思うが。

 その頃出会ったエモーショナルな作品の数々によって培われた感性と経験が、今の同人活動をするまでの自分を形作っていると思うと、ライトノベルにはそれだけのパワーがあるメディアの一つだと実感する。
 だが同時に、近年次々と新しいコンテンツが生まれているがためにラノベ業界そのものが陰っているように見えるのは少し残念に思う。

 そんなことを現在進行形で考えているこの令和の時代、私はある作品に出会った。
 それが第35回ファンタジア大賞大賞受賞作「Vtuberのエンディング、買い取ります」だ。

■公式サイト
VTuberのエンディング、買い取ります。 | 特設ページ | ファンタジア文庫 (fantasiabunko.jp)

ライトノベルでVtuber……。
これは読んだことがない、今この時代だからこそ生まれたであろう作品だった。

 一通り読んだ所感としては、作者のVtuber文化への熱意を感じ、作者のVtuber愛で溢れた1冊という印象だった。
 そして同時に、僕が今まで読んだことがないタイプのラノベでもあった。
正直、新しく斬新だと感じた。

 話は一話完結型(正確には物語は続いてはいるが…)で話が進んで行く。
各話ごとに主要キャラクター一人一人に順番にスポットライトが当たり、Vtuberを推す人とVtuberの中の人それぞれの視点で話が展開していく。
 Vtuberを推すファンの葛藤から、本来は見えないVTuberの中の演者さんまでそれぞれの立場のキャラクターの心理描写が細やかに行われているのがポイントだ。
あー確かにこんなことあるよねーとか共感できる部分も大いにあった。
あとめっちゃ専門用語多かった。
Vtuberを見たことのある人だったら刺さる部分も非常に多いだろう。

そんな作中には見所が満載だが、その中でも僕が特に気に入っているシーンがある。

それがVの中の人である霧谷彩音がスタジオに向かうべくタクシーに乗るシーンだ。
 内容としてはこの時乗ったタクシーの運転手が霧谷彩音演じるVtuber彩小路ねいこの大ファンで、彩音のこれから臨むことへの不安を自分のことを語る形で払拭しようとしてあげるというものだ。

お互いの立場を最大限配慮したうえで行われるこの会話のシーン。

基本的にファンと演者は特別な機会でもない限り決して関わることがない。
 ファンにはあくまでファンとしての節度を守りつつ接することが求められるのが常識だ。
そこでの中の人との邂逅。
僕ならば生きた心地がしないだろう。
だが同時に、夢のようなシチュエーションでもある。
ある意味でこのシーンはファンの願望の究極の形での具現化ともいえる。
だが運転手であるキャップンは決して出しゃばらない。
自分がファンであることを言わない。
慎みをもって、ただの運転手として、偶然出会った人間として励ましているのである。

僕はこのシーンがめちゃくちゃ好きだ。
なんというか、オタクが死ぬ間際に見る走馬灯のような、
大好きなあの人が出てきたけど5分後には忘れてしまいそうな夢のような、
そんな得も言えぬ儚さを内包した素敵な感動があるのだ。
早い話エモエモなのだ。
このシーンだけでご飯3杯いける。
たまらん。
死ぬ。

このシーンを受けて、すっかりキャップンが作中で一番のお気に入りのキャラとなってしまった。
人は自己投影できる人物がいい思いをしていると羨ましくなるのだ。
つまり→キャップン=羨ましい。

いや、キャップンだと作中では明言されていないから、もしかしたらあれはキャップンではないのかも知れない。
まあそこは作者のみぞ知る、という奴だろう。

そして主人公の苅部業。
こいつもかなり好きなタイプだ。
癖はあるが一本筋が通っている男前。
Vtuberを燃やすだけでなく、蒸し焼きにもできる技巧派。
そのうえオタクとしての「覚悟」も決まっていると来てる。
「男」としても憧れてしまう、正直かっこいい。
後モテモテだ。
羨ましい。

また、主人公の刈部業とヒロインの小鴉海那の関係がこれからどのように発展、はたまたすれ違っていくのかは非常に気になる部分でもある。
カルゴの魅力に惹かれている海那と、あくまでファンとして推すカルゴ……なんかドラマの予感がするな。
もし続巻が出るのであれば、今後の展開にも是非期待したい。

■おまけ
 Youtubeに宣伝動画も出ていたので張っておく。
 まれいたそは安定の可愛さだし、個人的には主人公の声優の内山昂輝が結構いい味を出していた。
もしアニメ化したら楽しみな作品な気はする。
主人公がアニメで暴れるところとか結構見てみたいかもしれない。


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