僕とヤモリとYouTuber
わたくしが飼育している二匹のペット。
彼らのプライバシー保護のため近影は伏せさせてもらうけども、どちらもヒョウモントカゲモドキというヤモリ(トカゲモドキはヤモリ)。
長年爬虫類や両生類に憧れを抱いてはいたものの、小学校低学年の時分数々の魚やカブトムシを安易に飼育しては無慈悲にぶち殺してきた僕は、自らが生物を扱うことを長年の間禁忌(タブー)としてきた。散々悩んだ末に比較的飼育が容易とされている前述の種を選んだのだけど、これが凄まじくカワヨ、否、ギャンかわであって、飼育を始めてから数年経った今でも消防車のサイレンがこだますれば彼らの安否をすぐさま確認したい衝動に、バイト中でも全ての仕事を放り出してしまいたくなる。普通に仕事をしていても面倒くさくて放り出してしまいたくなる。
名前はイトマとミナモ(愛称はにゃも、空耳ケーキ、ちよちゃんのパパ)。他にも『なまえ』や『みみみ』、『ミスターラブ&ポップ』などの候補があったけれど、たかだかヤモ畜生に人の言語を理解できるほどの知性が備わっているわけがないから、ぶっちゃけ名前なんかどうでもよかった。現在は貧困ゆえに不可能だけど、今後何かを飼い始めるときには名付けたい。ヘビも好きだ。アカハラのような国内の希少な種は僕にとって憧憬そのものと言っても過言じゃない。さらに、ゆくゆくはジャイゲコやデプレッサのような、労働者階級にはおいそれと手が出せない代物も手中に収めたい。あとなんか普通に猫飼いたい。
僕の家の近くにはかねだいというペットショップがある。アクアリウムやエキゾチックモンスターの愛好家には知らない人はいないような店で、品揃えも豊富。僕は僕のペットどものためにそこに愛車のチャリで革命!と足繁く通い、彼らのエサを毎月のように調達している。
先日いつものようにかねだいの店内に入ると、店の奥部から
「ミヤコヒキいんじゃん!!すげえ!買っちゃえよ!!」
などとわちゃわちゃとした声が店内に響き渡っていて、見ると、所謂ヤカラのような男性3人組がいた。
見たところ全員がタッパもあり、ボディに刺青を施したかなり気合の入った連中だったので、偏見はよくないと思いつつもたじろいでしまった。彼らはおそらくYouTuberだろう。ペットショップやイベントで大声で騒いでいて見た目が派手な人間は、大抵の場合生き物系YouTuberかなんかの類のはず。動画を見かけたことはないので新興の方々だろうか。かの名探偵の孫たる僕はそう推理した。
そこでは漫画のような一悶着もなく、レジに向かう僕の一安心も束の間、彼らとレジの列に並ぶタイミングが被り、僕は彼らの一つ後ろで会計を待つことになった。すると何故か一味の一人が後ろを振り向きあたりをキョロキョロと見回しはじめた。僕は喧嘩を売られやしないかと少々動悸がした。
そして彼らの会計が始まろうとしたその瞬間、一味の中のあたりを見回していた奴がスマートフォンを手に撮影を始め、
「カブトムシ!!!!!!!!!!!!!カブトムシどこっすか!!???????カブトムシどこ!!?!!!!???!?!」
と騒ぎ始めた。店中に響き渡り僕の耳をつんざく声。
「ヘラクレス!!!!!!!!!!うわぁ!!!!!!出た!!!!ヘラクレス!!!!!!すげえ!!!!ご購入!!!おめでとうございます!!!!!!!!!!!(拍手)」
どうやら一味の一人がヘラクレスオオカブトを購入したらしい。
僕は早々に会計を済ませてカメラに映り込まないように店を出た。
YouTuberのような職業が好かれる理由も忌み嫌われる理由もなんとなく理解できた気がした。
オチとかはないです。
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