小説「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」9
【前回までのあらすじ】21歳で死んだ姉ちゃん。姉ちゃんには好きな男はいたんだろうか。僕はもうためらわなくても女の子とキスができる。姉ちゃんはだれかの腕に抱かれたことがあったんだろうか。
僕は姉ちゃんが高熱を出して病室でうなされているとき、じいちゃんの目を盗んで、姉ちゃんの部屋に入った。どうすることもできないほど、確かめたかったのだ。
僕は姉ちゃんの机の引き出しや、そこにある姉ちゃん宛ての手紙や、走り書きのメモ紙や、読んではいけないはずの日記を読み漁った。
男からの手紙はなく、姉ちゃんの日記帳には悲しいくらい、年頃の女の子らしいものはなかった。
異性に対するときめきや戸惑いも、なにもなにもなかった。
ただあったのは、僕とじいちゃんのための毎日の献立の記録だけだった。
じいちゃんの好きなあさりの味噌汁。僕の好物のハンバーグ。じいちゃんの好きなもずく酢の山芋かけ。僕の好きな鶏もも肉のクリームシチュー。じいちゃんの好きなキンメダイの煮魚。僕の好きなペペロンチーノパスタ。じいちゃんの好きなきのこがたくさん入った茶碗蒸し。僕の好きな豚肉とゆで卵のウーロン茶煮。
テレビや図書館で借りた料理本の大量のレシピの写し。
初めて病院で診てもらう一週間前の日付で「腹痛あり。」と書いてあった。
食欲ない。きのうから腹痛続く。消しゴムが欲しい。痛みのなくなる消しゴム。なんだかコワイ。
「なんだよ、これ……」
僕は腹が立った。無性に腹が立った。
どうしてもっと早く病院に行かなかったんだ。痛いなら痛いと、どうしてもっと早く打ち明けなかったんだ。なんで無理して飯なんか作ってるんだよ!
どうして僕はなにも、
僕はなにも、気づかなかった。
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