夏の終わり、クモの巣とゴミ当番とディオール好きの彼氏
移住記録です。先月の記録はこちら。
移住記録がまだ3回目であることに驚いている。まだ3ヶ月なの?
最近、周りの人が何を言ってるのかようやく理解できるようになった。「こないだ芦屋でな」と聞いたときに、高級住宅街を思い浮かべることはなくなり「あ、その海の前ね」と返せるようになったし、「居組の案件やけど」と言われて「どこの団体の話ですか?」と聞くこともなくなった。
昼はクーラーがないと溶けてしまいそうなのに、夜の海は半袖じゃ寒い。さすがの寒暖差に寝込む日が数日続いた。コンビニに売ってる100円くらいのパウチのおかゆを食べたいのに、家には無印カレーのストックしかないし、コンビニに行くにはバスを使うしかない。寝込みながらカレーを食べた。意外とすぐ治った。
3ヶ月も住むと、家の手入れが必要になってくる。排水溝のカビが気になるとか、シンクの水垢が気になるとかはもちろん、庭のクモの巣が気になるとか1日何回ゴキブリ殺さなあかんねん、とか。「リノベ済みの古民家暮らし♡」にも現実というものがあるのである。
先日、いい加減クモの巣を退治しようと腹をくくり、スーパーにほうきを買いに行った。最寄りのスーパーに併設されているDAISOのおかげで私の生命は維持されている。周りにはコンビニもドラッグストアもないので、DAISOがなかったらまともに暮らすことができない。
200円のほうきを選んで、スーパーをうろうろと歩いた。どこにどんな商品が置かれているかも覚えてきて、陳列棚を行ったり来たりを繰り返す不審者から卒業することができた。私が住んでいる浜坂という地域はちくわが特産品なので、こっちに住んでからはよくちくわを食べる。小腹がすいたりあと一品ほしいという時は大体ちくわ。おかげで歓迎会続きで増えた体重は元に戻った。
スーパーの店員さんも大体覚えた。その日のレジはバサバサつけまのおばさまだった。いつも綺麗にまつ毛をつけていて、仕事の日はマスカラすら塗らなくなった私としては尊敬の眼差しだ。
「あら、お掃除するの?」とおばさまは言った。
「そうなんです、クモの巣がね」、自然と声が出た。
数ヶ月前の私だったら、「あっ・・・ハイ」という応答で精一杯だった。かおなしみたいなトーンで、必ず冒頭に「あっ・・」と発してしまう。都会から切り取られたような風貌で見た目だけは目立ってしまうのに、口を開けば挙動不審なのだ。
「あ〜〜クモの巣ね!いやよねぇ。頭とか顔にワッと被さると思うとほんまに。」
「そう、そうなんですよ。このほうきがいいですかね?他にいい方法があればいいんですけど」
「いや、これでええんちゃうかな。200円やし使い捨てでもええけぇ」
「ですよね、ちょっと帰って頑張ります」
いやいや、めちゃくちゃ馴染んでるやん。町の人やん。すっぴんに無印のTシャツワンピース着てほうき抱えて歩いてんのとか、明らかにこのへんの人やん。
そういえば、最近お近くのお友達(おばあちゃんの歳だけどそう呼んでる)とか、私と喋ることが楽しみやというシニアカーに乗ったおじちゃんのとこにも会いにいけてない。そろそろ顔出さな、とか思って、また「いやいや町の人やん」と自分で突っ込む。
「まだ町に来たばかりやけぇ」と特別免除されてたゴミ当番表にも名前が書かれていた。初めてのゴミ当番。ゴミの日の前日にゴミステーションにボックスを並べるのだけど、間違えて数が足りなかったらしい。隣の塩山さんに「まぁ慣れるし、誰かがやってくれるけぇ」と言われた。
最近夕陽が見れる時間が早まって、夏も終わりかぁなどと少し寂しくなる。これまで夏なんて気づいたら始まってるし気づいたら終わってたけど、四季よりももっとグラデーションのある季節がわかるようになった。
相変わらず仕事はぽんこつだけど、「はい!聞いてください!わかりません!」とか堂々と言うようになった。なんか言ってもここにいていいような気がした。いっちょまえに仲良い同僚もできて、近くのブンブンという喫茶店で昼ごはんを食べることもある。彼女の恋愛話を聞いて「彼氏がな、めっちゃディオール好きなんが気になんねん」というどうでもいい愚痴でめっちゃ笑ったりする。
かっこいいことは何もできてないけど、なんかこの町と仲良くやれてる気がしてきた。
移住3ヶ月目、とても楽しく日々を生きました。
また来月。
竹口和香