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【けもの道のコーチング】サポートする気持ち

 新聞に岩手県盛岡市のリンゴ農家のクマ対策についての取材記事が載っていました。

 猪去地区では、クマによる農業被害が発生し、対策として電気柵やクマの追跡調査が行われました。
 しかし、岩手大の調査の結果、クマを誘引している原因として農家のリンゴ放置が指摘され、行政が農家に「リンゴを野ざらしにせず、山をきちんと手入れするよう」呼びかけました。住民は「被害者なのに、非難されてばかりで助けてくれない――。『あなたも人間よりクマの方が大事なんだろう』」と不満を抱き、行政や大学に対する不信感が高まりました。

(現場へ!)クマ対策の最前線:1 獣害防ぐ工夫、汗かく地域(2024年10月21日付朝日新聞)より要約
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16064388.html?iref=pc_ss_date_article

 これは、相談するときによくあることです。コーチングでも。
 二者を「相談を受ける人」「クライアント」とします。
 つまり、問題発生から順に

 ・うまくいかないことが起こった。
 ・何とかしたい。
 ・クライアントは相談を受ける人に相談する。
 ・相談を受ける人は、誠心誠意を込めて「問題点」「対処の仕方」を指摘する。
 ・クライアントは、「全然私のことをわかってくれようとしない」と憤る。

 おそらく多くの人は、両方の立場で経験があるのではないでしょうか。
 何が起こっているのでしょうか。


 「相談を受ける人」は、

 ・リンゴ農家に正しいことを教えて実践したら、解決する。
 ・今までは、いろいろな事情があるだろうけれど、リンゴ農家は正しいことをやってこなかったからだ。
 ・研究をしている者として、正しいことを言わないといけない。
 ・岩手県に依頼されているので、県の担当者に専門家として事実を正しく伝えなければならない。

 「クライアント」は、

 ・ともかく、リンゴに被害が出ているし、クマは怖い。困った。
 ・農家として今できることを続けてきただけ。
 ・とにかく、クマがいなくなれば解決する問題。
 ・なぜ被害を受けた私たちに不備があるかのようなことを言われないといけないのか。

 その後、クマの対策はどのように解決に向かったか、記事の続きをご覧ください。岩手大学の教員やサークル「ツキノワグマ研究会」(クマ研)でも研究成果を発表されているはずですので、ご確認ください。


 コーチングでクマ防除がテーマになることはめったにありませんが、クマと同じようにこちらの状況と関係なく日々問題は起こってきます。

[コーチングは「目標達成のため」と言われますが、「自分が計画した自分の人生の目標」がテーマになることはほとんどありません。
 多くは、「他人から見たら些細だけれど、自分にとって重要なこと」がテーマになります。
 それを理想的な形で終わらせるとしたら、「目標達成」と言えませんか。]

 相談を受ける人は、「○○がダメなんだよ」「△△したの?」と言いがちです。もしくは、クライアントがどこまで理解しているか試そうとします。
 専門知識もあり、大学や行政が背後に見えるので権威があります。
 この例は違いますが、権威が無くても、クライアントがやってきたことを否定する言い方をしたら権威があるような気分になれます。

[クライアントが、テストの時にただ「正解」を求めるのと同じく、すべてを解決する方法を知ったらそれでいい、という考え方をしがち、
 相談を受ける人は、自分が信じる「正解」を受け取らせようとしがち、
 本文にこのことも関係しているけれど、場所を改めて書くことにします。]

 少しでも相手の上に立ちたいとか、相手の上に立たないと考えたことを言えないと感じる無意識の感覚を誰もが持っています。
 このことは逆に、相談する側・下の側だと、言いたいことを言えないと感じるし、相談される側は自分が伝えた提案に意見されるとカチンときます。
 意見を言う、提案するというのは、「上の立場」しかできないことと無意識に判断してしまうのです。子供時代に「口答えをするな」と言われた人は多いでしょう。

 相談する側とされる側ですから、心理的な上下関係は必ずできます。
 日常生活で、本当にたくさんあることだし、相手にカチンと来させないために先回りして自分の意見を言うのを控えたりしているものです。

 「それは、仕方ないことだし礼儀だ」と考える人もいるでしょうが、礼儀を示すことや敬意を持つこととは別です。
 陰口を言われていたり、言いたいことを我慢してため込んで身体の具合が悪くなることの方が嫌です。

 コーチングでは、「対等な関係を作る」といいます。クライアントが自由な発想を持ち、コーチはクライアントが考える場所を拡張して安全な場所を作るために必要なことです。コーチはクライアントに礼儀を示して敬意を持っています。
 その時に、クライアントがコーチに礼儀を示し敬意を持つことはできます。クライアントが自分を制限することではありません。

 コーチングは、自分らしい答えを出して、楽しいと思える未来に向かって進む勇気と第一歩を得る場です。

 自分を制限していたり、話していることと思っていることを変換したりしていては、得たいものが得られません。
 少なくともコーチングの場では、自由になりましょう。


 私はこの関係は、もっと日常生活にしみ出していってほしいと願っています。
 クライアントは、問題や困ったことが起こったら、礼儀と敬意を持った態度で、テーマにストレートに自由に相談してほしいのです。

 相談される人は立場もあり、相手にデータを出させて自分だけで分析して、結果から判断してクライアントの行動にダメ出しをしがちです。
 クライアントの目から勝ち誇ったように見えるように、提案してしまいがちです。
 ですが、そんなつもりはないはずです。できるだけ現場に足を踏み入れ、調査~整理~分析~対策の選択肢を出しつついっしょにやっていければいいですね。

 最後に腰砕けな書き方になりました。言い訳を。
 話し合いの場には、専門家などの方から決定案ではないけれど、「これしかない」という案を選択肢の一つとして提案することになります。
 「一緒に考える」と言っても、「どう考えても正しいから受け入れるしかない」となりがちです。
 相談を受ける人とクライアントの両方が、「話題を提供する一つの案」と素直に思えて、そこを出発点にして自由に話ができると、もっと創造的な結果となりそうです。

 日常の中の、「コーチングと気づかないコーチング」。誰もが礼儀と敬意を持って自由に話をできるなら、コーチなんていう職業は要りません。

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