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チン騎士化する国税庁 なぜ売春婦はどれだけ脱税しても捕まらないのか?

TwitterやTikTokなどで、剥き出しの札束を見せびらかす夜職アカウントを見たことのある読者は多いのではないだろうか。夜職界隈ではホス狂などを主として「札束を見せびらかす」という奇習が長らく流行しており、「同担を威嚇するため」「単純に自慢するため」「スカウト垢によるPRのため」など様々な理由で札束画像をアップロードする人々がSNS上には溢れている。

剥き出しの札束が乱れ飛ぶ様は、確かに一種の派手さや華やかさに溢れていると言える。しかし一方で、まともな社会人経験を持つ方ならどこかしら違和感を抱くのではないだろうか。

まず、どれほど巨額の金融資産を持っていたとしても、それを「現金」として保有するのはあまりに不自然である。防犯上きわめて危険であることは言うに及ばず、ATMで自由に降ろせない、クレジットカードの引き落としに対応できないなど実用面でも不便極まりなくメリットは皆無に等しい。

しかし夜の世界はどこまでも「現金」が金融資産の基本なのだ。500万円、1000万円を超すホストクラブの超高額会計でさえ現金支払いが基本という常軌を逸した実情すらある。確かにSNS映えはするかもしれないが、そのために貯蓄まで全てを札束で保有するというのは常識的なリテラシーがあればとてもできることではない。にもかかわらず、なぜ売春婦やホストなどの夜職たちはむき出しの「札束」をここまで偏愛するのだろう。

答えはシンプルだ。夜職で働くほとんどの人間は売上すべてを脱税しているからである。売上を申告していないため彼女らは金融資産を銀行口座に入れることができず、「札束をアルフォートコンビニ菓子の空き箱に隠す」などのドングリを穴に隠すリスじみたやり方で金融資産を保持している。

こうした経済犯罪が夜職界隈でまかり通っているのはそれだけで彼女らの倫理性の低さを物語るものなのだが、常態化した脱税の風習は単なる倫理的問題に留まらない。そもそもここまで大規模な脱税慣習がまかり通っていること自体が不自然である。さらにこうした脱税文化は彼女らの社会適応にも大きな影を落とす結果になっている。本稿は知られざる夜職たちの脱税事情と、脱税がもたらす「貧困のスパイラル」について解説していく。


夜職の99%は脱税している

まず、「そもそも夜職は本当に脱税を行っているのか?」というところからお話しよう。これについてはうってつけの資料がある。国税庁の発表する「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」という調査である

引用:国税庁「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」

一見してわかるようにキャバクラ・風俗業は1件当たり申告漏れ所得金額が他業種よりも圧倒的に高く、「直近の年分に係る申告漏れ割合」、つまり所得のどれくらいを脱税していたか?の数値も驚くほど高い。キャバクラ嬢は93.7%、風俗嬢は89.7%と所得のほぼ全てをまるっと脱税するのが当たり前になっているのだ。飲食業などでまま見られる「売上を過少に申告する」「経費を水増しする」という常識的な(?)脱税ではなく、「そもそも確定申告を行っていない」「事業所得から1円も税金を払ったことがない」というハードコア脱税スタイルが夜職においてはマジョリティになっている。

ちなみに、この国税庁の調査は「摘発された夜職嬢が所得をどのくらい脱税していたのか」のデータであり「どのくらいの夜職が脱税や所得隠しを行っているのか」のデータではないのでそこは注意してほしい。所得に対する申告漏れ率が100%ではなく90%程度になるのは昼職と並行しながら夜職に従事する夜職が一定数いるからだろう。キャバクラの方が風俗業より申告漏れ割合が高くなるのも、キャバの方が昼職との兼務が難しい(大量のアルコールを飲む上に短時間勤務があまり一般的でない)事情からだと思われる。

それでは「どのくらいの夜職が脱税を行っているのか」と言うと、多くの当事者と接してきた筆者の体感としてはキャバクラ嬢や風俗嬢はほぼ100%の従事者が事業所得すべてを脱税していると言って過言ではないと感じている。

基本的に風俗嬢やキャバクラ嬢は店の従業員ではなく店が契約する個人事業主であり、さらに慣習として売上は源泉徴収されずそのまま手渡される。個人事業主である以上、本来なら店から渡された「売上」(≠給与)を基に経費等を差し引いて確定申告を行わねばならないのだが、そうした手続きをまっとうに行っている夜職はほぼ皆無というのが実情だ。くわしくは後述するが、常態化する夜職の脱税は税務署員の中でも公然の秘密となっており、「国税は風俗嬢から税金を取る気がない」とはっきりと断言する元国税職員すら存在するほどである。

こうした「チン騎士徴税官」らの後押しのせいでもあるのだろう。夜職たちの納税リテラシーもまた極めて低い。「キャバ嬢や風俗嬢は個人事業主であり、個人事業主は自分で確定申告を行い自主的に納税をしなければならない」という知識すら有していない従事者すら少なからず存在するほどだ。

筆者が遭遇したことのあるケースだと、キャバにおいて遅刻欠勤などを行ったキャストに課せられる「罰金」制度を「税金」だと勘違いしていたホームラン級の世間知らずもいた。夜職の性質上、従事者の年齢が10代後半~20代と若年層に偏りやすく納税意識うんぬん以前に社会常識に乏しすぎるという面もあるのかもしれないが、それを取り締まるべき税務署側がひたすら夜職たちにダダ甘すぎる悪影響も大きいだろう。

このように、キャバクラや売春・風俗業などに従事する「夜職」たちは、社会人としての自覚をそもそも有していない率が顕著に高く、最低限の義務である納税すらも行わないことが常態化してしまっているのだ。

こうした反社会的な傾向が、彼女らに独特の金銭管理文化を生じさせることになった。それが「現金貯金」の文化である。


脱税がもたらす貧困のスパイラル

税と社会保障費をあわせた「国民負担率」は日本において45%ほどであるとされている。ざっくりと、給与の半分近くが税・社会保障費として取られる計算だ。つまり売上のほぼ100%を脱税している売春婦たちは、同程度の給与をもらうサラリーマンに比べ2倍近くの額を消費や貯蓄に回せるということでもある。ホストクラブで500万、1000万という高額会計が飛び交う理由の一端はここにある。

まっとうに税金を納めているサラリーマンや自営業者からすると、1円も税金を払わず売上金すべてを好き放題に使える脱税売春婦の立場は心底羨ましく感じられるかもしれない。しかし筆者の知る限り、脱税売春婦たちの生活実態は「安定」や「幸福」からはかけ離れている。それは売春・風俗業という職業自体がもたらす面もあるのだが、売上を脱税していることがさらに彼女らを脆弱な立場に追いやっている面も大きいのだ。

まず、脱税売春婦たちは銀行口座を持つことができない。

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週に1-2回程度更新。主な執筆ジャンルはジェンダー、メンタルヘルス、異常者の生態、婚活、恋愛、オタクなど。

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