弱者は性格が悪い
「弱者は性格が悪い」という一種のステレオタイプがある。
貧困層は怠惰で頭が悪く、障害者は傲慢で健常者をアゴで使うことに慣れ切っており、非モテ男性は親切に接すれば恩を仇で返される──。こうした感覚は世の隅々にまで行きわたっている。
時には、福祉や医療に携わる「支援者」たちでさえその感覚を内面化していることもある。弱者に関わることは危険で不快で利益の少ない営為であり、ある意味で彼らが悲惨な境遇にあるのは「自己責任」の産物なのだ、と。
こうした感覚は現代社会における公理のひとつとさえ言えるかもしれない。弱者の不潔さ、不快さ、邪悪さ、危険性…。それらを指摘する言説は枚挙に暇がないからだ。
さて、しかしここでひとつの疑問が生じる。
「弱者が性格が悪い」というのは客観的な事実なのだろうか?
実はこの問いに答えることは極めて難しい。この問題を深掘りすると、「そもそも性格の悪さとは何か?」という問いにまでたどり着いてしまうからだ。
例えば統計的には、富裕層ほど「性格が悪い」ことが示唆されている。社会心理学者のポール・ピフによれば、富裕層ほど交通ルールを破り、富裕層ほどゲームで不正を行い、富裕層ほど寄付の額が少なく、富裕層ほど弱者に対して傲慢な振舞いを見せる傾向があるという。
ピフが2010年に発表した「貧乏人ほど多く与える─社会階層が向社会的行動に与える影響─」という論文は英語圏を中心に大きなインパクトを与え、無数の追試や社会的な議論を巻き起こしている。客観的な観察はどうやら「強者ほど性格が悪い」という見方を指示しているようなのだ。
社会的弱者ほど利他的で協調的な姿勢を取るのは、考えてみればある意味で当然の話かもしれない。群れを作って生活するのは大きなサメではなく小さなイワシだ。権力者や富裕層のようになんでも個人の力で解決できないからこそ、「助け合う」という美徳が重要になってくるのだろう。
しかし、それならば、「弱者は性格が悪い」というステレオタイプは単なる事実誤認の勘違いなのだろうか。実は、必ずしもそういうわけではない。
なるほど、弱者の方が利他的で協調的かもしれない。弱者の方が思いやりがあり優しい心を持っているかもしれない、弱者の方がルールを守り公平かもしれない。しかしそれでもなお、「弱者は性格が悪い」と感じてしまうのが人間なのだ。
なぜなら人間という生き物は、
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