わかおの日記49
ぼくはもしかしたら、大きな陰謀に巻き込まれているかもしれない。
発端は今日の昼休みであった。圧の強い教授による英語の授業を90分間耐えきったぼくは、独立館の3階のトイレに駆け込んだ。なんとか間に合ったことに安堵して扉を閉めると、扉の服を掛ける場所に怪しげなビニール袋が掛けられていた。
おそるおそる中身を見てみると、中にはAV(オーディオ・ビジュアルではない。れっきとしたアダルト・ビデオである)のジャケット写真と、怪しげなDVDが1枚ずつ同梱されたセットが大量に入っていた。
ぼくは脳みそをフル回転させて、どうしてこのようなものが私立の雄、陸の王者、東大に行けなかった人が行くところ、慶應義塾大学の男子トイレに放置されてあるのか考えた。この感覚は男ならば分かると思うが、おそらく忘れ物ではないだろう。こんなに緊張感のある荷物を、用を足すついでに忘れていくはずがないからだ。
だとするならば、これは明らかにプレゼントである。農家の方が作りすぎた野菜をご近所に配るのと同じ感覚で、おそらく焼きすぎたAVを我々塾友におすそ分けしてくれたのだろう。我が義塾の仲間として、この粋なはからいに応えなくては男がすたるだろう。ぼくは顔も知らない塾生に対し感謝をこめて、ビニール袋から「キャリアウーマンの渇き〜ヤリ手セールスレディは欲求不満〜」を拝借した。
後々、男子トイレの怪ビニール袋のことを友人たちに話すと、みんなこぞってトイレに駆け込み、各々の趣向にあったプレゼントを受け取っていた。しかしこのDVDの中身が、我々の期待するものであるという保証はどこにもない。ぼくたちの熱いパトスを利用した巧妙なトラップである可能性もある。わくわくしながらDVDを再生したら、テニスサークルの勧誘ビデオだった、なんてことがあった日には、ぼくたちは死んでも死にきれないだろう。
その不安を払拭するために、空いている会議室で「キャリアウーマンの渇き」を再生してみたが、れっきとした桃色ビデオであった。ぼくたちは、初めて人類が月に降り立ったことを確認したときのプロジェクトメンバーのように、ハイタッチをした。
このような事件があった矢先のこの地震である。きっと何かが関連しているに違いない。ぼくたち慶應大学チェリーボーイズが、闇の組織の取引を、図らずして邪魔してしまったのではないか。いろいろな可能性が考えられる。ぼくの身も危ないかもしれない。ぼくに何かあったときのことは、これを読んでいる友人たちに任せたい。
追伸 にげろ