わかおの日記11
ぼくがサウナに足しげく通うようになったのは、およそ2年ほど前のことである。熾烈になりゆく受験勉強のなか癒しを求めたわかお青年は、ネットで「サウナがいいらしい」という情報を入手したのだ。さっそく友人を誘って「おふろの王様」花小金井店に赴き、サウナと水風呂を3往復すると、ぼくの自律神経は完璧に整えられていた。久しく感じることのなかった精神の調和がもたらされ、そのとき悩んでいた駿台模試のことや部活のこと、地理の授業がつまらなすぎることなどが、いっぺんにどうでもよくなったのである。
それ以来ぼくは、受験勉強のストレスで乱れがちな自律神経やメンタルヘルスを整えるために、スーパー銭湯に通っていた。ぼくが受験期に発狂しなかったのは、サウナによるところが大きかったのだろう。そして、大学生になり精神的に摩耗する機会が極めて少なくなった今でも、隙あらばサウナに足を運んでいる。
そして今日もぼくは、「始まりの地」こと「おふろの王様」花小金井店へと足を運んだのである。1いつものように受付でスタンプカードを提出すると、今日でスタンプが10個たまったらしく、ドリンクの無料券がもらえた。ぼくは継続することの重要性をかみしめながら王国の門をくぐった。
王国のサウナはスタンダードな熱さであり、水風呂もまた、スタンダードな冷たさのそれである。いつものようにサウナに居座り、限界を迎えると水風呂に逃げ込む。そしてベンチに座ってしばらく呆けるのだ。この、ベンチに座っているときが一番気持ちいい。浴場に反射する水音が、まるで自分の体の中から聞こえてくるように思われるほどに感覚は研ぎ澄まされる。そして、自然と目を閉じて、体内からの音に耳を傾けるのである。この至福を3回ほど味わったのちに、浴場を出た。
午後は王国の2階にあるリクライニングチェアに腰掛けながら、ラジオを聴いたり、読書をしたりしていた。今日は、村上春樹の「神の子どもたちはみな踊る」を読んだ。少しあらすじを覚えていたので、多分小学生くらいの時に一度読んだことがあったのだろうと思う。ただ読後感は昔読んだ時よりも、心に残るものがあったように思われる。ぼくは村上春樹の短編が好きだ。ありふれたようなマテリアルから、文学的な心象風景を描くのがとてもうまい。逆立ちしたって真似できそうにない芸当である。
王国から駅までの帰り道、灼熱の日差しに焼かれながら、何とか小説のアイデアをひねり出そうと思索しながら歩いた。なんとなくそれらしいものは出てきたような気がする。やはりサウナは素晴らしいものである。
追伸 村上春樹アンチだった、高校の国語の先生元気かな。
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