オリビン伝説

 昔、あるところに小さな王国がありました。小さく貧しい国でしたが、王は仲のいい王妃と共に国民のために力を尽くし、なんとか国を豊かにしようとがんばっていました。そのがんばりが通じたのでしょうか。あるとき、夢の中に神様が出てきてこう言いました。

「辺国の王よ、お主はよくがんばっている。しかし人の力では少しばかりこの国を豊かにするに及ばないだろう。しかればお主にこれを託す。これで国民を幸せにしてやってくれ。」

 翌朝王が目覚めると、なんと枕元になんとも美しい宝玉がありました。太陽の光を受け黄金に、月の光を受けみずみずしい緑に輝くその宝玉に、王はすっかり魅了されてしまい、それはそれは大事にしました。とても素晴らしい宝玉を授かったということは瞬く間に国中に広がり、その宝玉は「賜物」という意味のオリビンと呼ばれるようになりました。

 しかし王は次第にオリビンばかりを大事にするようになりました。国民に見向きもしなくなり、仲の良かった王妃ともすっかり喋らなくなってしまいました。王妃はとても悲しく思っていました。

 ある時王妃は思いつきました。あのオリビンを隠してしまえば元の王に戻ってくれるのではないかと。ですが日中は、王がずっとオリビンを見ているのでなにもできません。ですから王がすっかり寝た後、こっそり忍び込んで持ち出すことにしました。

 作戦決行の夜は、月がとても明るい夜でした。王妃は王が眠ったことを確認し、そっと部屋に忍び込みます。月の光に照らされて光るオリビンを見つけた王妃は、それをそっと持ち上げます。気付かれないうちにと部屋を出ようとしたその時でした。

「ん?王妃か?どうしたんだ?」

 なんと王が目を覚まし、王妃に声をかけたのです。それを聞いた王妃はびっくりし、手を滑らせて硬い床にオリビンを落としてしまいました。

 ガッシャーン!パリパリパリン!

「なんてことだ!オリビンが粉々だ!」

 王は叫びます。その時風がビューッと吹き、粉々になったオリビンを外へ運んでいきました。

「待ってくれ!待ってくれオリビン!」

 その叫びも虚しく、月明かりの中を舞うオリビンはキラキラと輝いて散っていくばかりです。

「ああ…。」

 王はとてもショックを受けていました。王妃は、とても悪いことをしたと理解しました。足元に落ちていた、少しだけ大きい破片を拾い上げ、王に近寄ります。

「ごめんなさい。オリビンばっかり大事にするあなたが許せなくって、オリビンを隠してしまおうって。でも、あなたの大事な物を奪ってしまった。本当にごめんなさい。」

 王妃は精一杯謝りましたが、王はそれを聞き入れようとしませんでした。

「もういい!出てってくれ!」

 王の怒鳴り声に、王妃は従うしかありませんでした。

 それから後、王はすっかり落ち込んでしまい、部屋から出てこなくなりました。家臣たちは大慌て。どうにかして王のを部屋から出そうとがんばりました。

 料理人はとびきりおいしい料理を作りました。音楽家はとびきり素敵なメロディを奏でました。宝石職人はキラキラ輝く宝石を集めました。庭師は美しい庭を作りました。しかしそれでも、王が部屋から出てくることはありませんでした。

 もうできることは何もない。王はもう出てこないんだと皆が思いました。王妃は悲しそうに、あの日拾い上げたオリビンのカケラを見つめます。すると宝石職人が話しかけてきました。

「それは一体なんですか?見たこともないほど美しい石だ。」

「これはね、オリビン。あの人が大切にしていたあのオリビン。私が割った、その破片。私がこれを割ってしまったから、あの人は出てこなくなったの。」
王妃は悲しそうに答えます。

「なるほど。ではそれが元に戻れば、王様は出てきてくれるのですね?」

「ええ、きっと」

「では、その宝石を埋めてみてはどうでしょう。宝石はみな大地の中で成長します。大地の力を吸収すれば、大きく成長して元どおりになるかもしれません。」

宝石職人の提案のこの提案を、少し遠くにいた庭師が聞きつけ、二人のもとへかけよりました。

「そいつを埋めて育てるだって?面白そうじゃねぇか!俺は植物を育てるのが得意なんだ。ちょっと貸してみな。」

 そう言って王妃の手からオリビンのカケラをさっと奪い取り、庭に走っていきました。そういうことではないのだけれどな、と宝石職人は苦笑いし、庭師の後をつけていきます。王妃もそれに続いて庭に行きました。その後に料理人や、音楽家もついていきました。

「おう!ここに埋めたからよ!毎日水やってしばらく待つぞ!どんな植物になるのか楽しみだ!」

 庭師が楽しそうに話します。それを聞いた料理人がぽんと手を叩いて言いました。

「そうだ!おいしい水をあげればきっと早く成長してくれるに違いない!」

 厨房に急いで戻り、王のために用意したとびきりの水を持ってきて、埋めたところにかけてやりました。それを見ていた音楽家も、ぽんと手を叩き、こう言いました。

「そうだ!楽しい音楽を演奏すれば、それにつられて芽を出してくれるに違いない!」

 楽器を揃え、庭でとても楽しく曲を弾きました。みんなで楽しく踊りました。少しだけ、みんなの心が晴れたようでした。みんな踊り疲れて、その夜はぐっすり眠りました。

 翌朝、庭師がいつものように庭の様子を見ている時でした。なんとあのオリビンを植えたところに芽が出ているではありませんか。庭師は喜び、早速王妃に伝えました。王妃も大変喜び、もっともっと成長させようと考えます。

「昨日の水と音楽がきっと良かったのよ。今日もやりましょう!」

 毎日庭で音楽を奏で、おいしい水をやりました。1日たつと葉が4枚に、2日たつと葉が8枚に、3日たつと葉が16枚に。どんどん成長しました。そして葉が数えきれなくなった頃、たくさんの花をつけました。小さく白く、かわいい花でした。花は次第に枯れ、たくさんの実をつけました。月夜のオリビンのような、綺麗な緑をしていました。

 庭師は言いました。
「これを王様に見せればいいんじゃねぇか?」

 王妃は答えました。
「いいえ、これでは小さすぎるわ。オリビンほどの大きさがない。」

 それを聞いていた料理人がふと言います。
「では、絞って汁を集めてみてはどうでしょう?」

 実をたくさん収穫し、それをみんなで絞りました。絞り出した汁をきれいにきれいにこしていくと、美しい黄金色の油が浮いてきました。

「これよ!これだわ!」

 王妃は以前見たオリビンの輝きにそっくりなそれを見て、とても興奮しました。すぐさまその油を瓶いっぱいに詰め、王の部屋に行きました。

「あなた!見てください!オリビンですよ!」

 その言葉に王ははっと目を見開きます。その目に、油の美しい黄金色が飛び込んでいきました。王はびっくりして声を漏らします。

「これは…」

「私が持っていたオリビンのかけらを庭に植えたの。そしたらね、素敵な木が生えて、その実からこのきれいな油が取れたのよ!」

 王妃は嬉しそうに答えました。

「ああ、とてもいい油だ。この木を国中に植えさせよう。そしてこの美しい油を売るんだ!」

 王は黄金色の油に元気付けられ、目を生き生きとさせてそう叫びました。

 こうして、このオリビンから生まれた木はオリーブと呼ばれ、国中に植えられました。このオリーブから取れる油はとても素晴らしく、他の国にたくさん売れました。そして国はみるみる豊かになり、王と王妃は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

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