真夏の君と白いカーテン Episode1
暑さのせいで身体が重く感じる。さらに汗ばむ肌に制服のシャツが引っついて余計に気持ち悪い。そんな状況では勉強する気にもなれず、先生の話を聞きながらノートをとる振りをして、密かに早く昼食を食べたいとか帰ってクーラーの効いた部屋で寝たいとか、そんな安易な欲望をノートに書き出していく。たまにヘンテコなイラストを描いてみたりもして。そして、教室へと入り込む風は生ぬるいがそんな風でも涼しそうに風になびく白いカーテンを眺めては涼を嗜むという繰り返しだ。
「じゃあ、この問題は白井にやってもらおうか」
そんな俺のちょっとした楽しい暇つぶしも毎回のように先生(担任の新井真)に妨害される。元はといえば、授業に集中していない俺が悪くて集中さえしていれば当てられることもないだろうということは十分承知だ。だから妨害されるという表現は正しくはないのだが、どうしても現実逃避をしたくなり、自分中心に世界が動いているから何をしていてもいいと勝手に思ってしまうという思春期あるあるのせいにしている。しかし、そんな楽しい暇つぶしを過ごすためには前もって予習や復習をして余裕を生み出さなければならないため、どっちにしろやることはやっているので先生にあてられたとしてもほとんど困ったことはない。仕方なしに気だる気な返事をして、指定された箇所を答える。
「正解だ!よくできたな!」
「いえ」
白井を見習えと他の生徒に言っているかのように威勢の良い褒め言葉を俺に投げかける。そして、その褒め言葉に洗脳されたようにクラスメイトはどこか期待しているような眼差しで見つめる。高校受験を控え、本格的に受験勉強が始まる中学3年の夏になったせいなのか、勉強ができる=憧れみたいなおかしな認識に変わってきている。もちろん受験では勉強ができたにこしたことはないが、なんだか本当の自分の実力以上に評価されて良いことなのか悪いことなのか分からず不安になる。ただ、一つ言えることは等身大の自分が評価されていないということだ。この場所には対等に接してくれる人はいないと孤独を感じる。俺はそんなに優等生じゃないんだけどな、ともやもやした気持ちで雲に隠れそうな眩しい太陽を眺めた。
帰り際、夕暮れに照らされながら授業中に必死に勉強するクラスメイトを思い出して少しだけ羨ましいとも思えた。自分の夢に向かって頑張ることがどれだけ青春なのか、どれほど達成感のあることなのか、自分の為に頑張っているとは思えない俺は路頭に迷うように寄り道をしながら帰った。
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