〜傲慢か挑戦か〜 芸術作品に見る"バベルの塔"
なぜ私達は同じ人間でありながら違う言語を話すのでしょうか。聖書では神がある塔を建設した事に怒り人々の話す言葉をバラバラにしてしまったと記載されています。その塔こそが「バベルの塔」ヘブライ語で混乱を表す言葉が冠された塔は、言語の違いによって起こる人類の混沌の歴史のすべての始まりです。
今回はそんなバベルの塔に魅せられた芸術家たちの芸術作品と一緒に、バベルの塔を人間の上への傲慢さと、新たな事に挑戦する力強さの両側面から見ていこうと思います。
ピーテル・ブリューゲル 2つのバベルの塔
バベルの塔を描いた画家としていちばん有名なのはブリューゲルでしょう。彼はその生涯で三つのバベルの塔を制作しました。そのうち一つは現存していませんが、残りの2つは現存しています。
┣大バベル
通称「大バベル」と呼ばれるこの作品は、大体1563年頃に制作された作品です。 114 cm✕155 cmというかなり大きな作品になっていて、大バベルと呼ばれているのはこのためです。バベルの塔を建設し始めたときの絵画でブリューゲル得意の超精密な表現がなされています。Google アートプロジェクトで高画質な拡大写真が見れますので是非どうぞ。
下の写真は絵の一部を拡大したものです。左側の部分では建設中の穹窿が支保工で支え立てています。この木組みに合わせてレンガを組んで、あとから木組みを抜いて穹窿のアーチを作ります。
右側の部分にあるのトレッドウイール・クレーンと呼ばれる古代ローマや中世盛期に使われていた建築用クレーンです。側面についた回し車の中に人が入ってクレーンを動かします。通常の物は回し車は一つだけなのですが、このクレーンには回し車が2つあるようですね。
ブリューゲルのバベルの塔は建築に関する描写が多く詳しく見ていると時間が無限に奪われていきます。画家としてだけでなく建築も手掛けていたブリューゲルだからこそ描けた絵ですね。
絵をよく見ると塔がどのような建材で作られているのかが分かります。左側の部分は建設の視察に来たニムロド王と、石工たちが描かれています。そして、右側の部分には船で運ばれてきた大量のレンガが描かれています。
つまり塔は石材とレンガ、両方を使った建築物なんですね。聖書にも「彼等互に言けるは去來甎石を作り之を善く爇んと」と記載があります。最初は石材だけで作っていたもののあとからレンガを用いだしたので、朱と白の入り交じるこのような二重構造になったのでしょう。
このバベルの塔、ある有名な建物に似ていると思いませんか?ローマにあるコロッセオです。層構造やアーチの感じが非常に似ています。実はこのバベルの塔の制作の十年ほど前に制作されたコロッセオのドローイングが残っています。レンガ造りの表面に石材のブロックを貼り付けていく工法なども古代ローマの建築で使われていたものです。
┣小バベル
この絵は大バベルの数年後に描かれた「小べバル」と呼ばれている絵画です。作者は同じくブリューゲルです。同じモチーフではありますが、大バベルと比べるとガラッと雰囲気が変わりましたね。
まず塔が高くなっていますね。大バベルでは8層目に取り掛かり始めた所でしたが、小バベルでは10層目まで作られ始めています。全体的に空が暗くなっているのも見て取れます。塔が高くなったとこと相まって塔から落とされる影が港を真っ暗に染めてしまっています。
そしてよく見ると気がつくのですが、視点が大バベルと比べて高くなっています。そのため地平線が下がって見え、バベルの塔がより大きく荘厳に見えます。
ですが塔と違って街の様子は寂れてしまっています。地面が見えないほどに建っていた建物は閑散としてしてしまっています。
┗私の妄想
聖書にはバベルの塔の建設目的として「去來邑と塔とを建て其塔の頂を天にいたらしめん斯して我等名を揚て全地の表面に散ることを免れんと」と記されています。つまり自分たちの名を轟かせて、人々が散っていかぬようにバベルの地にまとめ上げるためにバベルの塔は造られました。
天にも届く高い塔を作るという目標に人々は多くの挑戦をしました。クレーンなどを使った建築はまさに挑戦を象徴していると思います。
ですがバベルの塔が高くなるにつれて、人々は塔から心が離れていってしまったのだと思います。その証拠に塔の新造された部分はレンガがむき出しで完成させられており、更に挑戦の象徴だったクレーンには布がかけられてしまっています。
神の力が無くとも人々の心は勝手にバラバラになっていってしまったのではないでしょうか。
石工や大工の努力でも時間が立つごとに最終的には無益に終わってしまう。そんな聖書のバベルの塔の話にもある命題がこの2枚めのバベルの塔では示されているのではないでしょうか。
その他、様々なバベルの塔
これまではブリューゲルのバベルの塔について見てきましたが少しテイストの違うバベルの塔を見ていきましょう
┣ギュスターヴ・ドレ「バベルの塔」
ドレは19世紀のフランスの画家です。ダンテの神曲の挿絵などで有名な画家ですね。そんな彼は聖書の挿絵としてバベルの塔を描きました。螺旋の無機質な塔の手前で言葉が変わり混乱する人々が描かれています。
このような無機質な螺旋のバベルの塔はバベルの塔として良く描かれるモチーフですがこれらは、イラクのマルウィヤ・ミナレットと呼ばれるミナレット(モスクなどとセットになってる塔)がモデルになっています。
┣ルーカス・ファン・ファルケンボルヒ「バベルの塔」
ファルケンボルヒのこのバベルの塔は聖書のバベルの塔というより、ブリューゲルのバベルの塔といったほうがいいでしょう。ブリューゲルのバベルの塔と比較すると視点が違えど、構図が全くおなじになっています。ブリューゲルのバベルの塔が他の画家に大きな影響を与えた事がわかりますね。
┗エンドレ・ローズダ「バベルの塔」
ローズダは20世紀のシュールレアリスムの画家の一人です。幾何学的ではない図形が、敷き詰められた画風で知られています。あまりバベルの塔をモチーフにしたシュールレアリスム絵画は知られていないのでここで知ってもらえると嬉しいです。
最後に
一言にバベルの塔と言っても画家によって解釈や表現は大きく変わってきます。現代においてバベルの塔は、神への傲慢と挑戦という二面性を持っていると思います。そんな作者の解釈を想像しながら絵を見てみるのも悪くはないんじゃないでしょうか。
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