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30歳で老人臭がした私
祖母が老人ホームに行った今だから言える。
祖母と同居していた去年の私には、確実に老人臭がした。
子供の頃は大好きだったおじいちゃんおばあちゃんの家の匂い。それが建物の匂いではなく、老夫婦の生活臭だと理解したのは大人になってから。祖父が亡くなり一人になった祖母と一緒に住み始めると、その臭いは私の
服や小物やカバンやリュックの中身と外に浸透する。
私の体の髪や皮膚にも、まんべんなくこびりつく。
それはボディーソープや汗拭きシートや香水でどうにかなる類の物ではなく、むしろそれらの香りと混じって地獄のような混ぜ物になる。
それでも私は、仕事に行く上で清潔で保てるようになるべく気を遣った。元々汗っかきな体質だから、せめて人に不快な思いをさせないようにと
衣服を変えエイトフォーや汗拭きシートやスプレー一式は常備していた。
そんな努力もむなしく
「孫せんせー、くさーい!」
と勤務している保育施設では子供に囃し立てられる。ごめんねごめんねと口癖のように言っていた。
服は全て流行りの洗剤と香り付き柔軟剤だ。
それでも、昨夜トイレに失敗した祖母の下着を手洗いしていた私の腕にこびりついた排泄物の匂いは残ってしまうだろう。
そして、祖母の出すおままごとのような油分や塩分の多い食事やスイーツで、自分でもわかるほど日に日に肥えていく。
あの頃の私の自尊心は、ほぼ0だった。
大好きだったオシャレも、友達と遊びに行くことも、髪をセットすることも、本当にどうでも良かった。それを悲しむ暇もなかった。
祖母が今年1月に老人ホームに入居した次の日私は、近所の100均で消臭剤を大量に購入して
各部屋に置いた。
窓を開けた。
自分の服と布団だけを洗って干した。
シャボン玉の匂いが広がって、無性に泣きたくなった。
祖母のことが嫌いなわけじゃない。
でも私は、30なのに老人の臭いがする自分のことが嫌で嫌でしかたなかった。家の中で、電車の中で、職場で、誰かの隣で。
こんな話をどこに話せばいいのか、誰も教えてくれなかった。
その夜、寂しさと開放感とシャボン玉の香りに包まれながら布団に横になると、目尻に次から次につたって枕に落ちる涙。
おばあちゃん、こんなこと思っててごめんね。
でもそれでも、子供の頃から大好きだという気持ちは変わらないんだよ。
2020年6月現在、私の匂いコンプレクスは無くなりました。
もし同じ悩みを抱えているヤングケアラー若者ケアラーのかたがいたら、私はその人の匂いごと抱きしめたい。
頑張ってる人が、自尊心を無くすことは絶対あってはいけないことです。
私も誰かにとって、そんなことを相談できる存在でありますように。