読書記憶②“今“を変えていく1冊「怖れを手放す」
出会ってしまった、最愛の1冊
「最高」ではなくて「最愛」という言葉が浮かんでくる本と出会った。
私はNVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)というものを3年ほど前に知り、折に触れてそれを実践できるようになりたいと考えていた。
NVCの考え方には納得がいったし、自分がより健康に生きることができて、人との関わり方を根本的に変えることになるだろうと思ったからだ。
しかし日々の生活の中で、少しずつ葛藤が生まれていった。
「私だけがNVCを心がけても、人にそれが伝わらない。みんなも同じようにコミュニケーションをとってほしい」という他者への期待や不満をどうしても捨てきれないのだ。
NVCは人に求めるのではなく、自らが実践すればよいものだと提唱者も著書の中で言っているし、私も頭ではわかっている。
けれどこのもやもやはどうしたものか…と思っているまましばらく時間が経ち、最近ではNVCを意識することもあまりなくなってしまっていた。
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昨年12月の「天職創造セミナー」で、休憩時間にお話ししていた方からNVCという言葉が。思わず自分が感じていたもやもやを話すと、その方が「読んでみたらいいかもしれないよ」とある本を教えてくださった。それが今回読んだ、「怖れを手放す アティテューディナル・ヒーリング入門ワークショップ」(水島広子、星和書店)である。
お勧めされたままに読み始め、3日ほどかけてしっかり読んだ。まだすべてを理解できたとは言わないが、ひとつ言えるのは私の“今”を変えていく本だということ。
人生を変える1冊、運命を変える1冊という言い方は巷でよく聞かれるかもしれない。
でも私はあえてこの本を「“今”を変えていく1冊」と呼ぶことにしたい。
自分にとってどういう本かという点で言えば、最高の本ではなく「最愛」の本とでも言ってみたい。既にお読みになった方は、私がこんなふうに言う意味をなんとなく感じてくださるのではないだろうか。
アティテューディナル・ヒーリングとは
「怖れを手放す アティテューディナル・ヒーリング入門ワークショップ」は、水島広子氏がアティテューディナル・ヒーリング・ジャパン(AHJ)の入門ワークショップを実際に収録し本という形にしたものだ。
アティテューディナル・ヒーリングの創始者はジェラルド・G・ジャンポルスキーという人物だそうだが、彼の著書はまた近いうちに読むことにして、今回は水島さんのこの本を基にアティテューディナル・ヒーリングを少し紹介したい。
紹介といっても、興味が湧いた方は「怖れを手放す」を読んでみることが一番だ。実際のワークショップを収録したものなので、水島さんの言葉も参加者の方々の言葉も、ほぼ口語体で読みやすい。
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そもそもアティテューディナル・ヒーリングとは何なのか。
横文字でしかも「ヒーリング」と入っていると、カウンセリングや瞑想の手法かなにかじゃないかと思う方もいるかもしれない。
結論から言うと、この考え方はそういったものではない。カウンセリングやセッションの場で使われることはあるかもしれないが、そのためにあるというわけではない。
「怖れを手放す」は実際のワークショップに則って「入門ワークショップを始めるにあたって」「アティテューディナル・ヒーリング・グループのガイドライン(指針)①~⑩」、「アティテューディナル・ヒーリングの中心となる考え方①~⑤」から始まっている。
この「ガイドライン」と「中心となる考え方」について、私が読んで心に残ったことをご紹介したい。
AHの中心となる考え方
入門ワークショップでは、午前の後半にアティテューディナル・ヒーリング(以下、AH)の考え方を整理するようだ。水島さんは「この時点ではまだそれを自分ができるかどうかということをいっさい考えないで聴いてください」「こういう考え方なんだなというふうにわかっていただければ十分です」と話して始めている。
ではそのAHの中心となる考え方とはどんなものか。
「私たちの気分を悪くするのは他人や出来事そのものではない。それに対する自分のとらえ方である」「とらえ方を決めるのは自分のこころの姿勢である」
アティテューディナル・ヒーリングとは「こころの姿勢」(アティテュード)を自ら選ぶことによる「癒やし」(ヒーリング)のこと。
健康は「こころの平和」と定義され、こころの平和を得るために「怖れ」を手放すプロセスがアティテューディナル・ヒーリングである。
これを読んで、「何事もポジティブにとらえようってことね」と言いたくなる人もいることだろう。少なくとも私はそう思いそうになった。
ただ水島さんは「いわゆる“前向き思考“とはちがう」と説明している。
目の前の人が自分にとっていわゆる“ネガティブ”な態度をとったとして、それに対して腹を立てたり相手を遠ざけたりすることは「生き物として健康な反応」だと言う。反撃や逃げることといった生き物として当然の反応をどうこうしようとするものではなく、相手をどう見るか、どうとらえるかにひとつ提案をしているものなのである。
怒っている人を『あの人何をあんなに怒っているんだ』と見るのではなく、『なんだか困っている人がいる』と見ることで、ひとまず自分自信は無傷であるととらえる。すると、「攻撃そのものがなかった」ということになる。
いわゆる前向き思考は、攻撃は攻撃として認めているんです。「痛いけれども、私は大丈夫よ」というのがいわゆる前向き思考なので、ちょっと無理があるんですね。顔がピクピクしてしまうのはそういうことなんです。アティテューディナル・ヒーリングでは攻撃そのものがないわけですから、「大丈夫よ」と本当に笑っていられるということなのです。
それでは「とらえ方」を左右するものは何なのか。AHではそれを「自分のこころの姿勢」としている。
中心となる考え方①<「愛」と「怖れ」のどちらか>
中心となる考え方は①~⑤の5つあるが、1つ目はこちら。
こころの姿勢は、「あたたかいこころ(愛)」と「怖れ」のどちらかしかない。私たちの本質はあたたかいこころ(愛)である。
本書を読んでいくとわかるが、AHは「あたたかいこころ(愛)」と「怖れ」のうち、「怖れ」を手放して私たちの本質である「あたたかいこころ(愛)」を選べる、ということに気づくプロセスだ。
AHでは不安、苦痛、怒りなどを「怖れ」と呼んでおり、私たちの本質である「あたたかいこころ(愛)」が「怖れ」の層の下に埋もれてしまっていると考える。これら以外にも、「あたたかいこころ」以外のものはすべて「怖れ」だ。
「あたたかいこころ」について少し補足すると、もとの英語は「愛(love)」であるが、水島さんは日本人感覚で近いのは「自分の中にあるポカポカとしたこころ」という感じ、と解説する。
これにあてはまらないものはすべて怖れ。ということは、罪悪感や後悔、「こうしなくては」という焦りなども「怖れ」だ。
怖れというのは「自分のこころのあり方は外側の世界によって決められている」という信念体系のことだといってもよいと思います。つまり、自分が幸せになるためには人が優しくしてくれなければいけない、自分のこころが平和になるためには外側が平和でなければいけないというふうに考えることを「怖れ」と呼んでいただいてもよいと思います。
こう言われると、なんとなくAHの考え方がわかるという方も増えるのではないだろうか
中心となる考え方②<選択>
考え方の2つ目はこちら。
私たちは選択をすることができる(VS自動操縦)。
AHで言う「選択」は、「(こころの姿勢は)自動操縦ではない」という意味で使われている。ある人に酷いことをされたとして、その人を恨み続けることもできるし、ゆるすこともできる。私たちはその場その場、自分でこころの姿勢を選ぶことができるという意味だ。以下の解説がさらにかみくだいて教えてくれるように思う。
人生の中で何が起こるかを選ぶことは必ずしもできないが、そのような出来事に対するこころの姿勢を選ぶことはできる。
人生における全ての瞬間を、葛藤の中に生きるのか平和の中に生きるのか、怖れの中に生きるのかあたたかいこころを持って生きるのか、私たちは選んでいる。
水島さんはこの考え方を、リモコンを持つことに例えている。何があっても必ずゆるせ、あたたかいこころを「選べ」と言っているものではなく、「その気になればいつでも自分でゆるせる」ということ、「リモコンは自分が持っている」という考え方なのだ。
中心となる考え方③~⑤
3つ目はこちら。
自分のこころの声を聴く。
続けて4つ目。
完全に「今」に生きる。
最後に5つ目。
自分の選択に自覚と責任を持つ。
ばばっと並べてしまったが、特に4つ目の「完全に『今』に生きる」は解説を知ると面白い。
完全に今に生きると、人の話に対して別の聴き方ができるようになる。
この種の聴き方は、私たちが自分および他人に与えられる最高の贈り物の一つである。
アティテューディナル・ヒーリングは、人生の全ての瞬間に完全に「今を生きる」ことができるように助けるものである。
ちょっと本から引用しすぎて著作権方面が気になってきたが、この解説を読むと「今に生きる」ことと「聴く」ことの関わりが見える。のちほど紹介しようと思っていたアティテューディナル・ヒーリング・グループのガイドラインには次のようなものがある。
グループの中では「聴くこと」に意識を集中します。開かれたこころで人の話を聴くことや、お互いに支え合うこと、評価を下さずに人の話を聴き自分の話をすることを実践します。
日頃だれかの話を聴くとき、私たちはどのように聴いているだろうか。
仕事中ならば「あとであの資料作成を終わらせなきゃ」、あるいは話し手に対して「この人はいつもこの話をしているな、また同じだ」など、相手の話以外のものも聴いていることがある。
これはAHの見方で言うと「頭が過去や未来に行ってしまっている」という状態で、資料作成の用事が気になるのも「早く終わらせないとまずい」、「この人はいつも…」というのも過去からのデータベースがアラームを鳴らしているような状態といえる。
しかしこういった“雑音”に意識を削がれていると、“雑音”が変わらない限り、相手の話に集中して聴けないのだ。
自分の外側や相手が変わらずとも自分ができることをやっていくのがAHである。入門ワークショップではこの「データベースのほうに行ってしまっていると感じたら、『現在、現在』と戻ってくる」練習を午後に行うそうだ。
グループのガイドライン
次に本書の15頁から58頁までで紹介されている「アティテューディナル・ヒーリング・グループのガイドライン(指針)」からいくつか抜粋したい。
さきほどの「評価を下さずに人の話を聴き自分の話をすることを実践します」には、実はとても難しく思えることが含まれている。
人の話を聴くときに評価を下さないようにするのは、意識すればできるようになりそうだ。
しかし、「評価を下さずに自分の話をする」というのはどうだろう。
私の経験で考えてみたら、自分自身には頻繁に評価を下しているということに気づく。「自信があるように見せなきゃ」「賢そうに話さなくちゃ」といった評価の数々。話しながら自分のことが嫌になることも多々あり、これがけっこうつらい。じわじわと自己肯定感の低下につながったりする。
「他人が出てくるときには、自分もセットで」ということを忘れてしまうとどうなるかというと、だんだんつらくなってきます。
アティテューディナル・ヒーリングは正しく理解して実践している限り、つらくなることはあり得ない構造になっています。
アティテューディナル・ヒーリングを実践しているつもりで何かつらくなってきたとしたら、どこか読み違えたり読み落としている可能性がある。
そしてこの「評価を下さずに」という部分でいうと、「自分」というほうをだいたい読み落とすのだという。
ガイドライン⑤より <大切なのは一人ひとりのプロセス>
もうひとつ抜粋したい。
自分を含めてグループの一人ひとりをかけがえのない存在として尊重します。大切なのは一人ひとりのプロセスであり、それを自分がどう評価するかということではないと認めます。
このガイドラインが私にとってはかなり「目から鱗」だった。
泣いている人がいたら、泣き止んでほしいと思う。トラウマに苦しんでいる人がいたら、克服してほしいと思う。自分がもし怒りの感情に支配されそうになったら、早く手放したいと思う。
でもこのAHグループにおいて、これらはすべて「相手(あるいは自分)のプロセスに対して下している評価」ということになる。
相手にとってはもしかしたらつらすぎないかもしれないし、また、相手はまだしばらくそこにいる必要があるかもしれないし、そんなことはわからないですよね。それを「つらすぎるから早く楽になるべきだ」というふうに思うのは単に自分が下している評価にすぎないということに気づきましょう、というガイドラインなんですね。
このあたりを読んだとき、「べてるの家の『非』援助論」(浦河べてるの家、医学書院)という本を思い出した。べてるの家の精神と、このガイドラインが完全にイコールかはわからないが、どちらも“援助”や“克服”が相手にとって必要なプロセスを奪っているかもしれないという考え方を持つことにつながるように思う。
自分に対してもそうだ。
例えばもやもやが晴れないとき、『こんなことで悩んでいる自分はなんて小さいのだろう』などと、もやもやしている自分をどこか評価している自分がいる。
でも「一人ひとり」には自分も含まれるわけで、それならば自分のプロセスを評価することなく、その時に必要なことを経験することこそが大切なのだと思う。
さっそく怖れを手放す
私がこの本を手に取ったきっかけからAHの中心となる考え方、入門ワークショップグループのガイドラインをご紹介した。
「ぜひnoteで紹介したい!」という本と出会ったとき、心に響いたポイントをもっとコンパクトにまとめて紹介したいと切に思うし、読んでくれる方のためにそうしなければ、と思ったりする。
でもこの「コンパクトにまとめるべき」というのはきっと「怖れ」の1つだ。
この怖れを「自分を責める気持ち」から「書きたいことを書きたいように書くということに比べればそんなに大したことじゃないけど、でももっと“伝えたいように”まとめられたら、より心がぽかぽかするかもしれない」ととらえてみよう。
今の私には、こうとらえようとすることが必要なプロセスなのだろう。
「怖れを手放す アティテューディナル・ヒーリング入門ワークショップ」、ぜひ一読をお勧めしたい。
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