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『鵞鳥湖の夜』ディアオ・イーナン監督インタビュー「私はいつも絶対的な自由が存在しないと思っています」

#ディアオ・イーナン 監督に、「江湖」というテーマから中国映画界の目標、そしてますます厳しくなると言われている映画検閲制度まで話を聞いた。

■どんな人達が中国のヤクザ「江湖」になるのか?

ー中国のヤクザ、「江湖」が栄えた背景を教えて下さい。

イーナン監督 : 中国の「江湖」という言葉は非常に複雑な意味合いを持っています。物理的空間の意味では、古人は陸地で生活していて、知識が限られているため、広大な水辺まで行った時世界の果てに着いたと感じてしまうから、「江湖」が周縁の意味を含めていると思います。社会学の角度から言うと、この「周縁」は権力の届かないまたは無効になる場所です。その内部で通用できる精神はやはり民衆の間に普遍化された倫理道徳、および弱肉強食のジャングルの掟です。

(C)2019 HE LI CHEN GUANG INTERNATIONAL CULTURE MEDIA CO.,LTD.,GREEN RAY FILMS(SHANGHAI)CO.,LTD.,

ーそもそもどのような人達が「江湖」になるのでしょうか?

イーナン監督 : 中国ではヤクザは組織された犯罪グループだと定義していますが、映画中の窃盗団は初歩的なヤクザ組織と言えるでしょう。けれどそれは閉鎖的で、非エリート化なもので、自分の社会的ネットワークを広げることができないから、田舎の宗族群落のほうが適切だと思います。彼らは村や小さな町からやってきて、主な犯罪理由は生活の貧窮や怠け者だからです。

ー住民とはどのような関係性において成り立っているのですか?

イーナン監督 : こうなってしまった原因はとても複雑で、経済、教育など多岐にわたる要因が挙げられます。個人的には、このような初歩的なヤクザはだいたい職業化されておらず、時には彼らの多重の身分の区別がつかなくなって、労働者・農民・ぶらぶらしている都市住民・窃盗グループの一員など、なんでもありうるのです。これは広い社会学の問題なので、ここで映画の中の人物について説明することしかできないですが。

■江湖と警察をパラレルに描いた理由

ー江湖と警察をパラレルに描いているところから、江湖がIT革命が起きる前の古い中国の象徴でもあるようにも感じました。

イーナン監督 : 江湖は相対的な概念として永遠に存在し、中央と周縁との関係を、物理的空間だけではなく、精神的面でも表していると思います。ポジティブに理解してみれば、それは相違性や下からの活力を象徴し、詩情的で非哲学なものであって、現代文明の反動的な動きさえあります。

ーなるほど、中国のプリミティブな部分とも言える、と。江湖と警察の関係性が面白いなと思いました。

イーナン監督 : 警察と強盗とは互いに証明し合う関係だと思います。持ちつ持たれつのパランスを保っていて、時に法律を越えてしまいます。警察は江湖を回っていなければ目標に近づくことができないですし、警察は強盗より勇猛果敢で、強盗より強盗性を持たなければ彼らを制圧することもできないです。中国に「警察と匪賊は一家族同然」という諺があるですが、こういう関係性を指しています。

(C)2019 HE LI CHEN GUANG INTERNATIONAL CULTURE MEDIA CO.,LTD.,GREEN RAY FILMS(SHANGHAI)CO.,LTD.,

ー変わりゆく中国社会で、江湖はどのように変化しているのでしょうか?

イーナン監督 : 江湖は相対的なものだと言いましたね。中国は変化しているなか、江湖も必ず変化しています。東と西は違うですし、富裕な地域と立ち後れている地域や農村と都市も違います。むしろ、江湖は言語と想像となって、見えない地下の世界と化しました。

ー二線都市と三線都市の住民はこの変化に対し、どのような想いを抱いているのでしょうか?

イーナン監督 : 中国では、階級の相違や平民と貴族といった外化された生活儀式が存在しておらず、表面から見ればみんなが一体となって、同じストリーミングメディアを見たり、同じ娯楽の番組を見たりして、普通の庶民は自分が努力さえすればより良い暮らしができると思って、社会から排除された感覚はないです。中国のみんなの目標はもっとお金を稼げることですから、手段を選ばない人もいれば前向きに向上しようと努力している人もいます。みんなが疲れ知らずに喜んでやっていて、まるで金銭が人を平等にさせるようにね。なので、一般人はどうして自分と江湖との関係を考えたりするのでしょうか?私からすると「江湖」はむしろ知識人の用語のようなものですね。

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■「女は勝利して、男は捧げられた」

ー確かに、ジャ・ジャンクー監督も「江湖」をテーマにした映画を作っていますものね。個人的に、女性や力を持たぬ普通の人々をエンパワリングするような希望に満ちたラストシーンが大好きです。

イーナン監督 : 女は勝利して、男は捧げられました。男は恐怖のなかで死亡に打ち勝って、生命の価値を成し遂げました。サムライほど勇敢ではないですが、リアルで信用できると言えるでしょう。女性は男性の争いのなかから生き残られ、最終的には勝者の姿として、男性主権を代表する権利システムを後ろに残しました。世界にはいつも性別の圧迫が存在していますが、女性を通して秩序を再建できる可能性も常に存在しています。

■国際共同制作と国産映画のシェアが広がる中国映画

ー今回、フランスとの合作ですが、どのように国際共同制作が立ち上がったのですか?

イーナン監督 : フランスの会社が前作『薄氷の殺人』を配給してくれて、良い興行成績を得たので、自然に次の作品も共同制作しようと決めました。

ー中国のクリエイターとして国際共同制作をするベネフィットやチャレンジは?

イーナン監督 : 特にないですね。まずフランス側はたいへん監督する側の作品を尊重してくれて、この辺は全く自由です。もちろん脚本とポストプロモーションの段階では提案を出してくれるですが、すべてが気持ち良く進展していました。彼らはとてもプロでたいへん仕事熱心です。

ー現在、中国映画市場では外国映画よりも、国産映画のシェアが広がっています。そのような背景で、本作のように国際共同制作をする理由は?

イーナン監督 : 理由は彼らが海外配給において安定したネットワークを有していて、同時に実力もあって、アジア監督の作品を数多く配給してきたからです。もちろん豊かな映画祭の経験とストラテジーも持っていて、すべての監督に魅力を感じられるはずです。

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■ますます厳しくなると言われる中国の検閲制度について

ー中国が今掲げる「2035年までにアメリカのライバルとなる強い映画の力」、1本につき約15億円以上を稼ぎ出す映画を年間100本制作するという目標に対してどう思いますか?

イーナン監督 : 映画マーケットの角度から言うと、より多い大衆向きの映画が出てくるでしょうし、より開放的な価値観が共有できると思います。そうなると豊かな作品を持続的に創り出すことができ、変わりゆく観客のニーズを満足させ、社会の進歩を促すこともできますね。こうして見れば良いことかもしれません。期待できます。

商業映画や市場の呼びかけ以外、創作における多様性を維持し、世界各国の優秀な文化を鑑賞し参考して、独特な民族の文化精神を形成していくことが一番重要です。

ー来年2021年の中国共産党結党100周年に向けて、検閲制度がますます強化されると予想されますが、そのことをクリエイターとしてどう捉えていますか?

イーナン監督 : 私はいつも絶対的な自由が存在しないと思っています。日光のなかに踊るほこりは自由だと私は信じていません。それに意味がないからです。自由にはそれと対応できるクロージャーがなければならないのです。ポジティブなパラダイムかもしれませんが、芸術にとってはなおさらです。

■中国映画界における創作の源とは……?

ークリエイターの視点から、現在の中国映画界がなしとげた功績と今後の課題を教えて下さい。

イーナン監督 : 中国映画界の功績は巨大な市場のうえに成り立っていて、と同時に中国の特有な制度と中国人の日常生活の趣の中で成り立っています。長い歴史と近代化との激しい対立が、映画創作の養分となっています。映画従事者は謙虚な態度で常に自らを反省し、地道に働き続ければ、目標に自然と近づくのです。

■大寺眞輔氏による解説「カドの映画屋さん」


【あらすじ】

2019年の第72回カンヌ国際映画祭で話題をさらったのは、最高賞パルムドールを制したポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』だったが、もう1本、アジア発の衝撃をカンヌにもたらして絶賛を博した映画があった。それが2014年の『薄氷の殺人』でベルリン国際映画祭金熊賞、銀熊賞(男優賞)をダブル受賞した中国の気鋭監督、ディアオ・イーナンの5年ぶりとなる待望の新作『鵞鳥湖(がちょうこ)の夜』である。

中国北部の地方都市を舞台に、未解決連続殺人事件への関与が疑われる美しき未亡人と、彼女に心奪われていく元刑事の運命を描き上げた『薄氷の殺人』は、生々しいリアリティと不条理な悪夢性がせめぎ合うサスペンス・ミステリーの傑作で、日本でも多くの観客を魅了した。そのイーナン監督がフランスとの合作で完成させた今回の新作では、ノワール調のアーティスティックな映像感覚がいっそう研ぎ澄まされ、警官殺しの逃亡者となった男と謎めいたファムファタールが織りなす危ういクライム・ストーリーから、一瞬たりとも目が離せない。

刑務所を出所して古巣のバイク窃盗団に舞い戻った裏社会の男チョウが、縄張りをめぐる揉め事に巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう。たちまち全国に指名手配され、警察の包囲網に追いつめられたチョウは、自らに懸けられた報奨金30万元を妻のシュージュンと幼い息子に残そうと画策する。そんなチョウの前に現れたのは、妻の代理としてやってきたアイアイという見知らぬ女。リゾート地の鵞鳥湖で水浴嬢、すなわち水辺の娼婦として生きているアイアイと行動を共にするチョウだったが、警察の捜索を指揮するリウ隊長、報奨金の強奪を狙う窃盗団に行く手を阻まれ、後戻りのできない袋小路に迷い込んでいくのだった……。(オフィシャルサイトより引用)

http://wildgoose-movie.com/


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