歌集『母となる』 第六章「及ばぬ高きすがた」~『生殖の海』2024年版~
歌集『母となる』 第六章「及ばぬ高きすがた」
ほのぼのと春こそ空に来にけらし天の香具山かすみたなびく
あけぼのゝ空を霞に染めなして雪ふるさとに春は来にけり
谷河のうち出づる波も声たてつうぐひすさそへ春の山かぜ
うぐひすをさそふ山風寄せぬらし庭にまだ見ぬ花の香ぞする
春の夜の夢のうき橋とだえして峯にわかるゝよこぐもの空
途絶えぬや覚むればとほき浮き雲の小倉の峰に分かれゆく夢
梅の花あかぬ色香もむかしにておなじかたみの春の夜の月
月をのみ形見と眺むながむればその夜の花の匂ひ立つ影
ながめつる今日は昔になりぬとも軒端の梅はわれを忘るな
匂ひ来よ死出の山路に梅のはな幾千よろづの春を経ぬとも
霜まよふ空にしをれし雁がねのかへるつばさに春雨ぞ降る
春雨にかへる翼はしをるらむ花の宮こを厭ふ雁がね
春風のかすみ吹きとくたえまよりみだれてなびく青柳のいと
青柳はさやにおぼろになびくめり霞分けゆく風のいくへに
薄く濃き野辺のみどりの若草にあとまで見ゆる雪のむらぎえ
雪げしてむらむら見ゆる野べの草をひとしほあをく染むる春雨
いま桜咲きぬと見えてうすぐもり春に霞める世のけしきかな
咲きぬやと峰のあたりをながむればきのふより濃き霞たなびく
風かよふ寝ざめの袖の花の香にかをるまくらの春の夜の夢
目覚むれば袖にいろ濃き花の香も消ぬやさらでも春の夜の夢
花さそふ比良の山風吹きにけり漕ぎ行く舟のあと見ゆるまで
寄せかへる花の水面を漕ぎ分けて去りゆく春の志賀の夕暮れ
またや見む交野ゝみ野ゝさくらがり花の雪散る春のあけぼの
ながきよの道ぞふたゝび訪へ春は交野ゝ雪のあけぼのゝ空
山たかみ峯の嵐に散る花の月にあまぎるあけがたのそら
散る花に曇れる月の高嶺より春のなごりぞしらみそめぬる
みよし野ゝ高嶺のさくら散りにけり嵐もしろき春のあけぼの
吹く風は峰の桜をこき混ぜて空白妙の春のあけぼの
花さそふなごりを雲に吹きとめてしばしはにほへ春の山風
あとしばし風を頼まむ花のなごり山に霞に吹きとめよかし
花は散りその色となくながむればむなしき空にはるさめぞ降る
濡るとなくむなしき空を見上ぐれば散りにしはなの影ぞ消えゆく
柴の戸をさすや日かげのなごりなく春暮れかゝる山の端の雲
暮れかゝる春のあなたをながむれば明日よりむかふ山の端のいろ
梶間和歌歌集『母となる』 ~『生殖の海』2024年版~
序章 にほふマルボロ
第一章 松の緑
第二章 まよふうたゝね
第三章 レモンのマドレーヌ
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 海の辺の女
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 露のあけぼの
第八章 草枕
第九章 母となる
第十章 水鳥のつばさ
終章 夢の浮橋
2024年版にはあとがきを用意しておりません。
2020年版のあとがきを無料公開しておりますので、そちらをご覧ください。
過去の『生殖の海』
2020年版『生殖の海』
2021年版『生殖の海』
2022年版『生殖の海』
2023年版『生殖の海』
紙媒体の『生殖の海』2020年版
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noteでのサポート、その他様々な形で読者の皆様にご支援いただき、こんにちの梶間和歌があります。ありがとうございます。
特にこのたび令和5年の隠岐後鳥羽院大賞和歌部門で古事記編纂一三〇〇年記念大賞を受賞し、表彰式を含む大会のツアーに申し込み、ツアー代金(9万円弱)は生活費と別に工面することになりました。
ツアーには無事参りましたが、その後の生活もございます。お気持ちとお財布事情の許します方に、ぜひともご支援を頂けましたら幸いです。
ツアーの様子はこちらのマガジンで連載して参ります。どうぞお楽しみに。
今後とも、それぞれの領分において世界を美しくしてゆく営みを、楽しんで参りましょう。
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