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歌集『母となる』 第三章「レモンのマドレーヌ」~『生殖の海』2024年版~


歌集『母となる』 第三章「レモンのマドレーヌ」

どんなに望もうと、その写真のお姉さんのような姿にはなれないのよ。

多岐川飛鳥


夜は明けぬ覚めぬなりけりうつせみは昔もけふも起きて見る夢

子を殺め子の父を捨てつちの香を草のかをりを踏み締めて立つ

マドレーヌ食めばレモンの香はつよし良き母といふ名を持たぬ身に

俺の子を殺してつぎはれのをとかぜのあなたのライヲングラス

頬あかし我が手も赤くいさやさや風ノルウェイの丘に吹くらむ

永劫といふ観念のうへに立つ我が卵管の癒着せしより

卵管をつぶして得たるうつせみも昔もなべてまぼろしのうち

よるの窓に瞳をうつすマーマレードジャムの小鍋に手を休めずに

孕まれぬさがにまかするいきものゝ恨みとほすにあたひやはする

芦の根の世に取りこぼすくさぐさのいろを思へば海しづかなり

子や要らぬなどゝ尋ぬる友のまへに冷めゆく二杯のカモマイルティー

母となること疑はぬさいはひにそよや声するライヲングラス

サヴァンナの草原くさはらに立ち海をまだいだく抱かぬ風は隔てず

なべてみな見ず知らざりしいにしへを時どき思ふときどきは、思ふ

目を開けて尽きせぬ夢を見る夢にあはれといまは思ふうつせみ


梶間和歌歌集『母となる』 ~『生殖の海』2024年版~

梶間和歌歌集『母となる』

序章 にほふマルボロ
第一章 松の緑
第二章 まよふうたゝね
第三章 レモンのマドレーヌ
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 海の辺の女
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 露のあけぼの
第八章 草枕
第九章 母となる
第十章 水鳥のつばさ
終章 夢の浮橋

出典

2024年版にはあとがきを用意しておりません。
2020年版のあとがきを無料公開しておりますので、そちらをご覧ください。


過去の『生殖の海』

2020年版『生殖の海』


2021年版『生殖の海』


2022年版『生殖の海』


2023年版『生殖の海』


紙媒体の『生殖の海』2020年版


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ツアーには無事参りましたが、その後の生活もございます。お気持ちとお財布事情の許します方に、ぜひともご支援を頂けましたら幸いです。

ツアーの様子はこちらのマガジンで連載して参ります。どうぞお楽しみに。


今後とも、それぞれの領分において世界を美しくしてゆく営みを、楽しんで参りましょう。


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