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歌集『母となる』 第四章「明けぬ夜の闇」~『生殖の海』2024年版~


歌集『母となる』 第四章「明けぬ夜の闇」

くらきより冥き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月

雅致むすめ式部


雨のなごりふかき朝けの玉の緒にひかりを添ふるさ緑の風

夢よりもはかなき世にて夢を見む忘られぬ夢のあとを追ふため

木下こした闇を暗き庭に迷ひ来ておなじこゑするほとゝぎす哉

橘に匂ひをよそへ恋ひ交はし憂き世を忘る玉の緒のこと

夢にまた身をまかせゆくゝらきより冥きに落つる我がこゝろから

玉の緒ゝ肌へに刻むはかなさの砕くるまでの夢と知るべく

長きよにみじかき夢の果てを見きげに玉の緒のかぎりなりけり

落ちとまる枯れ葉のかげにもゝ千鳥さへづり交はす朝あけの空

横雲の峰をつたひてわかれゆく朝けの夢をなほ見むとして

さ緑の風にいだかれ君を知りこはが誰れを待ちに待つ空

橘の降りしむる夜に死出の山を越え来よ去年こぞの山ほとゝぎす

我れのみやせむと問ひける古言をなかれなかれてみづぐきのあと

そのことゝ覚ゆるをりもありせばよつらきまで君はあはれなりけり

消えやらぬうつし心に恋ひ恋ひて憂き世にいまは生けるうたかた

まだ夢を見る世にかゝる人かはとおどろかれぬるこゝろかゝへて

明けぬ夜の闇より闇に迷ひたり行くあてをなみ又や恋する

はじめより終へも分かぬ夢路なり照らすばかりの月をながめて

生きて見るこの世の夢の果てを知らず西にかたぶく月のさやけさ

山の端に月はかくれてうつせみの冥さになほも入れる迷ひ路

春の日をふたよひと夜と吹き越して雪消ゆきげをさそふ風の朝あけ

うたゝねに軒ばの雪はみぎり打ちて見ぬ佐保姫の裾のきぬずれ

夜もすがらうごかぬ雪の庭みれば草木を起こす春風ぞ吹く

梅が枝にほのぼの匂ふ雪積めばをり知りがほに鳴けるうぐひす

枝おもき花のかすみに霞まれてなほゝのかなる窓の月影

むらむらの花の面影消え初めて霞もうすき春のあけぼの

夢よりもはかなき世にてその夢に影のうつろふ花は散りけり


梶間和歌歌集『母となる』 ~『生殖の海』2024年版~

梶間和歌歌集『母となる』

序章 にほふマルボロ
第一章 松の緑
第二章 まよふうたゝね
第三章 レモンのマドレーヌ
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 海の辺の女
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 露のあけぼの
第八章 草枕
第九章 母となる
第十章 水鳥のつばさ
終章 夢の浮橋

出典

2024年版にはあとがきを用意しておりません。
2020年版のあとがきを無料公開しておりますので、そちらをご覧ください。


過去の『生殖の海』

2020年版『生殖の海』


2021年版『生殖の海』


2022年版『生殖の海』


2023年版『生殖の海』


紙媒体の『生殖の海』2020年版


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ツアーには無事参りましたが、その後の生活もございます。お気持ちとお財布事情の許します方に、ぜひともご支援を頂けましたら幸いです。

ツアーの様子はこちらのマガジンで連載して参ります。どうぞお楽しみに。


今後とも、それぞれの領分において世界を美しくしてゆく営みを、楽しんで参りましょう。


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