歌集『母となる』 第八章「草枕」~『生殖の海』2024年版~
歌集『母となる』 第八章「草枕」
なべて世はかりそめに寝る草枕結べば消ゆるうたかたの夢
うつゝとは夢まぼろしのあはひにてまことゝ紛ふ幻のうち
さしかゝる夕日の影のうつろひに重さほの増す散りがたの花
きのふ見し花をけふ又見むとかはうつるならひの世のすゑにして
ふぢの花やまぶきのはな苔に寄せて夕風ごとに春ぞ暮れゆく
いろいろの花のしがらみ褪せ果てゝひとへに夏の衣をぞ着る
なべてみなひともゆかりも水底に入りき夢を見きゝと起きながら
月も日も西にかたぶく世にひとはものゝふとして生き去りにけり
人の死にかろき重きはなしといふさかしらごとを繰るこゑもして
うつゝとも夢とも分かで夜もすがら日すがら見ゆる影は幻
時や如何止まるか夢か緑濃き山にいや添ふ濃きみどりいろ
みじか夜の暮るれば明くる玉の緒のさかひを越えてほとゝぎす鳴く
風おもき夕べの庭をながむればむかしにしめる軒のたちばな
ひさかたの雲ゐに迷ふ白鷺の翼に晴るゝ夏の日の影
秋風に似たるひと夜の夕暮れにまだ鳴き鳴かぬひぐらしの声
初風や雁もなくやと思ふまにふかくぞ秋のなりまさりける
忘れむと強ひて思へばおのづからその夜の夢に微笑めるひと
哀しびをかなしび続け生きかぬる人にあるらむ我れもなべての
見上ぐれば月は檜原をいま離れひろき雲ゐに弧を描きつゝ
踏み分けし枯れ葉をうづめ積む雪にひかりを添へて澄める月影
世の憂さを忘ればやとて草枕かり寝の旅に出でこそはすれ
されど我が仮の宿りに思ひ寝の世はおしなべて憂き世なりけり
それながらあらぬ世かとぞ覚えぬるきらめきわたる星の夜空に
きのふまで我が目はいかにこゝろには月こそものゝあはれなりしか
大空にうち敷き詰めて光る星のひとつひとつを数へてぞみる
その底に驚かれたり砂子敷ける夜空にこゝろかく動くとき
星の夜のあはれを旅に知りしよりなほ身のかゝるうつせみの世や
なかなかに現しごゝろを取りかへし哀しびよりも深きかなしび
降りしきる雪の心に草々のこゝろもうごく春のあけぼの
朝霞ほのかに見ゆる梢よりまだ咲かぬ花の匂ふあけぼの
思ひわび絶えむと覚え絶えはせでことしも庭にきけるうぐひす
春の夜の枕に匂ふ花の香にみじかき夢ぞ又覚めにける
なよたけの世に経る身をば吹きとほせ春の嵐も秋の野分も
時にたゞ昔のことゝ思ひなし思はぬことを思はする月
ひとゝせを十年と思ふ五十とせはたまゆら寝ねし夢かとぞ見る
野べの死も水底の死もうつせみもなにかこの世はうたかたの夢
生きて見る夢の終へ処も分かぬまに花をながむる春は来にけり
梶間和歌歌集『母となる』 ~『生殖の海』2024年版~
序章 にほふマルボロ
第一章 松の緑
第二章 まよふうたゝね
第三章 レモンのマドレーヌ
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 海の辺の女
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 露のあけぼの
第八章 草枕
第九章 母となる
第十章 水鳥のつばさ
終章 夢の浮橋
2024年版にはあとがきを用意しておりません。
2020年版のあとがきを無料公開しておりますので、そちらをご覧ください。
過去の『生殖の海』
2020年版『生殖の海』
2021年版『生殖の海』
2022年版『生殖の海』
2023年版『生殖の海』
紙媒体の『生殖の海』2020年版
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特にこのたび令和5年の隠岐後鳥羽院大賞和歌部門で古事記編纂一三〇〇年記念大賞を受賞し、表彰式を含む大会のツアーに申し込み、ツアー代金(9万円弱)は生活費と別に工面することになりました。
ツアーには無事参りましたが、その後の生活もございます。お気持ちとお財布事情の許します方に、ぜひともご支援を頂けましたら幸いです。
ツアーの様子はこちらのマガジンで連載して参ります。どうぞお楽しみに。
今後とも、それぞれの領分において世界を美しくしてゆく営みを、楽しんで参りましょう。
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