『生殖の海』 2023年版 第一章「いまも言ふ」
『生殖の海』 2023年版 第一章「いまも言ふ」
Apuweiser-richeのかゝるクローゼットにカーゴパンツをつかむ朝あけ
弁当に着替へも詰めつ紅引きつビッグサイトにいざ向かふべし
ローソンの脇の柱に身をあづけいつものメンツと交はす「おはやう」
戯れにけふも寄り来る植竹は黙ればジャニーズ系好青年
彼女などをらぬ沼野ゝ待受のかのぢよの倚れる壁ぞまばゆき
「わかんないもんスよ、見た目くまモンでも」と言ふ田越はガチのイケメン
腰袋カチッと締むるこの音にをんなはガテン系女子となる
髪を結ひヘルメットに顔を隠すかぎり自由ではあるこのからだより
二四〇〇ミリメートルのポールの二、三本ぐらゐ担ぐよこゝに生きてゆくため
腕、又肩に支ふる重みあり任されひとり下端組むとき
なにかこのオクタノルムを組める我がゝらだの熱さをどるばかりに
※展示会施工に仮設ブースを組むシステム部材の一種にて、木工ブースにかはり広く用ゐらる
基礎工事が好き特別装飾に又血ぞ燃ゆるオクタノルムを組めるかぎりは
地にをればなべてなるめる男らも二割増しなり七尺脚立のうへ
されど我が恋ふるこゝろは男より雄々しきひとにうちなびきつゝ
腰袋はづして髪もほどくときONE OF THEMと戻るさびしさ
おほかたは鞄に収まらぬメットきれいに入りぬよき日なりけり
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宿に風は夜露も霜ゝ紛ふめり冴えざえ更けてゆく冬のそら
音もなくさ庭に雪は降り積みて雲割りてこそ月出でにけれ
ラチェットレンチを齧れば深き血の味のうらさびてゆくしろき月影
アキちやん、とつぶやき握るラチェットの昔をいまになすよしも哉
六尺の脚立を肩にかへりみて我れを率てゆくこゑ遥かなり
マルボロに嗄れたるこゑに馴るゝ夢を見けむ久しく目を開けながら
いつもよりできる気がするアキちやんのラチェにオクタを組みバラすとき
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