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『生殖の海』第一章 「のぼる煙」
『生殖の海』第一章 「のぼる煙」
しづかなる暁ごとに見わたせばまだ深き夜の夢ぞ悲しき
弁当に着替へも詰めつ紅引きつけふの現場は幕張メッセ
システムが好きだと言へばおほかたは紛ふシステムエンジニアかと
細き我がゝらだに人は聞ゝ返すシステム施工はバランス仕事
※種々のシステム部材を用ゐ、展示会の仮設ブースを設営、撤去する施工業務。
戯れに語らはむと来「植竹は黙ればめつちやイケメンなのに」
彼女などなき大藤の待受のカノヂョの凭るゝ壁ぞまばゆき
「わかんないもんスよ、見た目くまモンでも」と言ふ田越はガチのイケメン
腰袋カチッと締むるこの音にをんなはガテン系女子となる
この子宮から自由なりロングヘアくゝりメットをかづくたまゆら
二四〇〇ミリのポールの二、三本ぐらゐ担ぐよ我れもガテン系女子
腕、又肩に支ふる重みよし任されひとり下端組むとき
なでふかくオクタノルムを我が組めば血潮沸き立つ胸はたかなる
※システム部材の一種にて、木工ブースにかはるものとして展示会施工に広く用ゐらる。
あまりにもオクタが好きで時に言ふ「これ組んでれば彼氏要らない」
基礎工事が好き特別装飾も又おもしろしまことオクタは楽しかりけり
地にをればなべてと見ゆる男らの脚立のうへに匂ふことわり
二十余年男を厭ひ来し我れが脚立見上げて胸ときめかす
されど我が恋ふるこゝろは男より雄々しきひとにうちなびきゆく
腰袋はづして髪もほどくときなべてのをんなと戻るさびしさ
おほかたは鞄に収まらぬメットきれいに入ればよき日なりけり
✽
宿に風は霜もなみだも紛ふらむ冴えざえ冬の夜は更けにたり
音もなくさ庭に雪の降り積めば雲を割りてぞ月出でにける
ラチェットを齧れば深き血の味のうらさびてゆくしろき月影
アキちやん、とつぶやき握るラチェットの昔をいまになすよしも哉
六尺の脚立を肩にかへりみて我れを率てゆくこゑの遥けさ
マルボロに嗄れたるこゑを胎にきく夢を見にけむ目を開けながら
いつもよりできる気がするアキちやんのラチェにオクタを組みバラすとき
「バラしはもうだいぢやうぶだな」バラしはね大丈夫ぢやない胸のさゞなみ
男より雄々しき君の背すがたに血めぐり初むる冬の夕暮れ
間配りもバラしの順も習はざる我れにをりをりこゑ掛くる君
※図面に従ひ必要となる部材を並べゆく作業。配材ともいふ。
「あたしもさう、クライアントに教はつた。うちの社員は余裕ないから」
目を細め腕を伸ぶる横がほを盗み見ながら跨ぐ六尺脚立
ほんたうは五尺脚立こそなほよろしけれ重心ずらしパラビーム受く
社員より教はらざりしパラ上げは見やう見真似に身につけぞ来し
※ブースのパラペットを上ぐる作業にて、一定の長さを超ゆれば二人にておこなふ。
こゝろもちきつくロックを締め上ぐる感触をもて君ふり返る
始発までつれづれなればマルボロをくはへて駅にたむろする影
灰皿を囲むまとゐのまばゆさにすこし離れてアキちやんを見る
ぶかぶかのマフラーに笑み咲きこぼるげに男よりそは雄々しくて
しのゝめの空白妙に匂ふときゝのふを知らぬ我れ生まれたり
恋やするいさやさやさやうちなびく黒髪分けてとほりゆく風
あさ緑野べの雪げに風ふれていま若草の芽ぐみ初めぬる
堰きかぬる山のしたみづおとを立てゝこぼれむとする春は来にけり
子を孕む胎持つ君に恋をする胎を持つ我が夢のあとさき
マルボロはゆくへも知らずほのぼのと草ばにわたる血のにほひ哉
脚立たてゝのぼればそこに見えやするありし日の影ありし日の君
男より雄々しきひとに呼ばるやと覚むればさりや夢は夢なり
けふも組むオクタの重み恋は君に憂さうれしさも君につらなる
きのふよりこゝろはちかしとこしへに身こそ隔ゝれシステムを組む
ながむれば行くすゑ知らぬ夕暮れにのぼる煙をマルボロとせよ
ヘルメット鞄に提げて影追へば早く来いよといまも言ふ君
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『生殖の海』目次
序章 にほふマルボロ
第一章 のぼる煙
第二章 母として行く道
第三章 しづかなる海
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 目を開けて
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 いのちひとつぶん
第八章 水底の死
第九章 母となること
第十章 我が暴れ川
終章 ひかりを添へて
PS.
横書きは読みにくい?
注の文字が大きくて読みにくい?
ですよね。noteですから。
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