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歌集『母となる』 第二章「まよふうたゝね」~『生殖の海』2024年版~


歌集『母となる』 第二章「まよふうたゝね」

おほかたのうきにつけてはいとへどもいつかこのよをそむきはつべき

入道后宮きさいのみや


咲き満てりぬれを重み影暗しその下道に立ち尽くす也

子の闇にまよふさへこそうれしけれこの玉鉾は我がためぞかし

薄雲にほがらほがらと明け暮るゝ空かきくらす春霞かな

ひたとねがふ裂け果てよ胎身も絶えね言はでをなべてあだし野ゝつゆ

うたかたもぬ玉の緒となかれつゝ絶ゆることなきけふ飛鳥川

ほど過ぎていたく覚ゆる子は産まれいたく覚ゆる子の母と也

ひとたびはいな玉の緒はこゝろからなびきゝさはれ春の夜の夢

しがらみを風にまかする花のうへに夕影うすく霞たなびく

片道に行くばかりなるつばくろの雲のかよひ路夏のかよひ路

親となることは嵐の晴れ間より忍び音立つる山ほとゝぎす

こなたには秋も裏見をせぬ葛のかへすがへすも悔いられにけり

思へ君いはほの奥も松のいほくらきに落つるたまぼこの道

かぎろひの心燃え立つうち臥して望まれざりし子をながむれば

我れをのみ頼めを暗き道のべの露にしをるゝなでしこの花

憂き世をば夢となすべく触るゝ髪にすこしやすらふすこしだけ いざ

こゝろから乱れそめにし黒髪に見ぬほのかには春のなごりを

立ち尽くすひとを隔てゝかへりみれば我がし道もあはれなりけり

偽りと見じ愚かなるばかりなりそよ我れだにも我れを知らずて

をんなにも妻にもあらず母として我が行く道を照らせ月影

なにごともあらしのすさぶながきよにながくもまよふうたゝねの夢

花おもき桜はすこし青みそめて透けばきらめく風吹きわたる

あさき夢絶えし峰なる白雲は次なる花のおもかげと咲く

春雨にけさは花影うすくなりにほひをのこす夢にだに降る

夕暮れの花にうつろふ影みればやすらふ風もゆかしかりけり

こゝろからとはじめて覚ゆなべてみな薄雲のぼる果てに消ゆべく


梶間和歌歌集『母となる』 ~『生殖の海』2024年版~

梶間和歌歌集『母となる』

序章 にほふマルボロ
第一章 松の緑
第二章 まよふうたゝね
第三章 レモンのマドレーヌ
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 海の辺の女
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 露のあけぼの
第八章 草枕
第九章 母となる
第十章 水鳥のつばさ
終章 夢の浮橋

出典

2024年版にはあとがきを用意しておりません。
2020年版のあとがきを無料公開しておりますので、そちらをご覧ください。


過去の『生殖の海』

2020年版『生殖の海』


2021年版『生殖の海』


2022年版『生殖の海』


2023年版『生殖の海』


紙媒体の『生殖の海』2020年版


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ツアーには無事参りましたが、その後の生活もございます。お気持ちとお財布事情の許します方に、ぜひともご支援を頂けましたら幸いです。

ツアーの様子はこちらのマガジンで連載して参ります。どうぞお楽しみに。


今後とも、それぞれの領分において世界を美しくしてゆく営みを、楽しんで参りましょう。


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