地方演劇を真面目に考える会 番外編 その12 【大都市圏と非大都市圏の演劇の違い編】
概要
2021年に和歌山市のクラブゲートと、オンラインで開催した「地方演劇を真面目に考える会」の記録です。以下のHPにて、開催した動画のアーカイブ、アンケートデータや、インタビュー動画をご覧になれます。ぜひご覧ください。
大都市圏の演劇と非大都市圏の演劇の違い
前回まで、演劇環境について、ひとつづつ検証していきました。そして今回は、大都市と非大都市圏での演劇の違いについて考えていきます。そもそも、大都市圏の演劇の知識で、非大都市圏で演劇をやっていて感じた、「違和感」の正体について考える為に始めたアンケートだったので、ここでまとめて行こうと思います。
非大都市圏の方がよい部分
・地域性を取り入れた作品作り/観客との距離が近い
・作品制作にかかる費用が安い
・制作上の制約、義務感が少ない
大都市圏の方がよい部分
・アクティブな観客数が多い
・役者数が多い
・役者のモチベーション/技量の差が少ない
・役者としての仕事がある
・劇団数が多い/演劇コミュニティーが大きい・多い
・評価がされやすい
悪い所を改善する!!
大都市圏に負けている部分があるなら、それを克服すれば、非大都市圏でも負けない演劇環境を作れるのではないでしょうか。
・アクティブな観客数が多い
大都市圏と非大都市圏では人口規模が約5~10倍ほど違い、それによって経済規模も大きく違うので、観客数が大都市圏ほど伸びないのは仕方がない事だと思います。しかし、その分、ライバルもするくないので、劇団運営ができないこともないと思います。そもそも本気で劇団を運営するなら、地元にこだわらず大都市圏へのツアーも可能です。以前の記事でも書きましたが、観客数を増やすことは、非大都市圏でも可能です。はっきりといえば、観客数が増えないのは、環境のせいではありません。マーケティング戦略や、広告手法などは山ほど情報が転がっています。まずできる事をしたのか? そしてそのうえで、劇団運営が難しいのであれば、運営方法自体が間違っていると思います。そして、そこまでして観客数が欲しいのか?も疑問です。そもそも観客数だけ増やしたいだけなら、地域にこだわる理由はないと思います。こういう記事を書いていてなんなのですが、そもそも観客数を地域で見るのはあまり意味がないと思います。地域での活動に主眼を置くのか? 大都市圏と地元の公演を視野に入れるのか? 自劇団の志向をまずはっきりさせて、観客数について考えるほうがいいと思います。
・役者数が多い
役者数が少ないというのは、非大都市圏だと活動に支障をきたすレベルまで深刻なところも少なくないと思います。ただ、劇的に役者数を増やす方法は、今のところ思い当たりません。(知ってる人がいたら教えてください!!)そもそもそれができてれば困ってないです。なので、今のところ、長期的に地道にやっていくしかないと思います。とにかく長期スパンで、役者を募集し続ける。ワークショップを開く、地道に育てる。これを、辞める人の数より上回れば、増えるはずです。
・役者のモチベーション/技量の差が少ない
これは、役者の絶対数の違いなだけで、実際は大都市圏でも起きうることだと思いますが、大都市圏では、それを是正せずとも、他の人を呼ぶという選択肢を選べます。しかし、非大都市圏ではそうはいきません。これは、役者の差を克服するスキルをつけるしかないのではないでしょうか。まず一番簡単なのは、受け入れる。そして、長期的に育てるという事でしょう。これは別に特別な事ではなく、どんな組織でもやっていることですし、演劇だからという事ではないと思います。以前にこれについて詳しく考えた記事を書きましたので、興味がありましたらコチラもご覧ください。
・役者としての仕事がある
大都市圏でも、おそらく東京近辺でしか、役者として生計を立てるのは現状難しいと思います。今、ネット環境やユーチューブの発達で、役者として非大都市圏在住でも、収入を得る方法はあるのかもしれませんが、逆を言えば、別に非大都市圏でもいいともいえます。いち劇団では、なかなか難しいので、こればかりは役者だけで収入を得る以外でもいいのか?と、可能性として一番高い、ティーチングの方法を探るのもいいかもしれません。
・劇団数が多い/演劇コミュニティーが大きい・多い
劇団数に関しては、逆にライバルが少ない!というメリットもあるかなと思います。うまくやれば人気一人勝ち、もっとうまくやれば、文化予算などの補助金も勝ち取れる確率が高いということもあります。
ただ、コミュニティーの小ささは、かなり辛い部分がありますが、そこは、別に地域にこだわらず、全国的に感が手見てもいいかもしれません。今や、連絡を取るのは、さほど難しくはありませんし、SNSや、オンラインツールを使って、オンライン上での演劇仲間を探してもいいかもしれません。
・評価がされやすい
これも、非大都市圏では難しい所があります。戯曲なら地域は関係ないですが、公演作品や役者が評価される、そして評価できる人や機関がない所が多いと思います。とはいえ、劇団同士で評価をしあうのはトラブルの元なので、それも難しいと思います。
おそらく評価というのは、モチベーションに大きく関わってくるものだと思うので、長期的には、この問題について考える必要もあると思います。
一番簡単なのは、大都市圏での公演を行うというのがいいと思います。単独での公演よりは、演劇祭やなんらかのイベントに乗っかるキッカケがあればよいと思います。さがせばそこそこあると思いますので、近隣の大都市圏でそういった募集がないかの情報を得られる状況を作っておいた方がいいと思います。
いい所を伸ばす!!
いい所を伸ばせば、非大都市圏の演劇の良さが強調され、より独自性をもてるのかもしれません。まずは、いい部分をもっと良くする方法を考えていきます。
・地域性を取り入れた作品作り/観客との距離が近い
まずは、非大都市圏の劇団というよりも、地域の劇団であるメリットが、観客との距離感が近いという事があります。デメリットにも上げられる、観客の少なさは、逆を言えば、観客の顔が分かるという捉え方ができます。そうすれば、そういう人たちが望む作品を提供する機会も増えます。どうしても大都市圏の演劇は、最大公約数的な、全体的にいい作品に偏りがちになってしまいますが、逆に色んな方向に特化する事が出来るということです。特に、地域性に関しては、大都市圏の一流作家よりも地域情報の量では負けようがありません。その時・その場所・その人達に必要な演劇作品を作れるのは、同じくその時・その場所・その人たちを生きる人こそが作れるのではないでしょうか。また、そうして作り上げた地域性は、劇団の個性ともなります。大都市圏で公演するときにも、地域性は強みとなり、劇団の売りになるでしょう。
ただ、じゃあ地域性を意識した作品だけがいいのかというと、そういう訳でもなく、大都市圏でやっている演劇を目指しても、大都市圏よりもライバルが非常に少ないので、評価を得やすいでしょう。特に地域の公演においては、大都市圏の演劇の情報が少ない状況では、歓迎されることでしょう。
つまり、非大都市圏の演劇は、やりたい放題なのです。もう、やればやるだけ楽しい。やってはいけないことなどないのです。無敵ですね!!
・作品制作にかかる費用が安い
技術料や、人件費などはさほど変わらないかなと思いますが、劇場代や、稽古場代など、大都市圏よりも費用が安い所が多いと思います。ですが、観客数が少ないので、興行収入も少ないので、そこまで運営は楽ではないと思います。しかし、初期費用の安さは、演劇の始めやすさともいえます。実際には、演劇人口は少ないのですが、演劇を始めるハードルはヒトの問題以外は、かなり少ないと思います。また、一回の公演のリスクも少ないかと思います。とにかくガンガン公演をすることもさほど難しくないと思います。そう、どんどんと自由に思うがままに公演ができるのです!
・制作上の制約、義務感が少ない
もう、観客も少ない、評価してくれる人も少ない。そうなれば、開き直って、なんでもやってもいいじゃないだろうかという感じ。
いい方が悪いですが、パクり放題です。こうかくと良くない感じがしますが、大都市圏で書かれた戯曲を上演する事とさほど変わらないですし、日本の演劇の大多数は、欧米諸国でやられた演劇のリスペクトという名のパクリです。
非大都市圏の中では、ライバルが少なく、なにをやったっていいのです。つまり、自由。さらにいうなれば、なにをやったっていいのです。しっぱりしたら、ああやっちゃったなでお終いです。
大都市圏と非大都市圏の演劇はなにが違うのか?
1 客層の違い
一番大きいのは、客層が全然違うという事です。基本的に、大都市圏は「演劇を観るのが好きな観客」が多い傾向にありますが、非大都市圏では「劇団・役者を見たい観客」と「演劇じゃなくてもなにかを観たい観客」が占める割合が多きくなります。
つまり、大都市圏では、演劇らしい作品に特化した傾向がつよくなりますが、非大都市圏では、その制約はあまり必要ないという事になります。
2 観客主体型よりも、役者主体型の環境
観客→役者→劇団というピラミッドがあるとしたら、非大都市圏は、比率的には形はあまり変わらないのですが、一番多くあるべき観客層が薄く広いイメージです。
なので、観客層がライト層の割合が強く、出演者がやりたいからやるという、野球で言う所の草野球的な性格の演劇の割合が強くなります。つまり、制作側・役者側のための演劇の性格が強くなります。つまり、観客のための演劇よりは、役者のための演劇である要素が重要になる可能性が高いです。どちらがいいではなく、演劇の消費者が誰か?というだけの問題かと思います。ただ、ここの要素が、大都市圏の観客依存型の演劇論とあまり折り合わない部分が大きいかなと思います。やはり「楽しい」を犠牲にして観客に向けている部分が多いのと、出演者の劇体験について言及する演技論が少ないのが原因だと思います。また、役者のモチベーション差などについても、あまり役に立つ情報がみつからないことも多いです。基本的に「できる人の方がえらい」という間違った理論があるのが一番の問題だと思います。そこさえわかっていれば特に大丈夫だとは思うのですが。
3・モチベーション維持の方法
観客や評論家の不在が関係しますが、モチベーションの維持方法が、全く違ってくると思います。大都市圏では、公演での成功体験として、観客数や評論家の評論、何かしらの賞というものがありますが、非大都市圏では、公演が終わったら知り合いがほめてくれて終わりという所が多いと思います。
では、どこでモチベーションのよすがを求めるかというと、純粋に演劇の楽しさによるところが大きいと思います。ここで一番の差がでるのですが、観客依存型の演劇の方法論だと、ここで軋轢が生じてしまう可能性が高いです。両立できるのがもちろんいいのですが、観客の為にと、辛い稽古を乗り越えるモチベーションが持ちづらいので、演劇体験自体を目的とする必要性が高く、その方法論は、大都市圏の演劇論とはそぐわないということです。前述でもでてきましたが、役者主体の体験型演劇を推し進めた先の演劇作品を作る。というのが最終目標にすれば、モチベーション維持は難しくないかと思います。
また、もう一つの問題は、モチベーションをゆくゆくは都会進出して、役者をやりたい人が混在している場合の、モチベーションの差が生まれてしまうパターンも考えられます。
この場合、どうやって両立させていくのか?は、劇団によると思うのですが、お互いを尊重して、作品に昇華させていくことが重要かなと思います。そういう段階の団体は、そもそも団結力もあったもんじゃないので、一回の公演で無理せず、なにができるのか? 何をしたいのか?をゆっくりと探す作業を、公演を重ねながら見つけていく方がいいとおもいます。
非大都市圏の演劇論
そんな大それたことではないですが、大都市圏の演劇とどう付き合えばいいのかぐらいの感じで考えます。
1 劇団の方針を明確にする
とにもかくにも、まず劇団の方針を明確化すれば、いろんなトラブルは避けられるかなと思います。
まず、戯曲の世界を作りたいのか、役者の身体性を重要視したいのか。観客に作品を届けるのが大事か、役者の劇体験が大事なのか。諸々。
どれか一つに絞らなくてもいいとは思いますが、結構矛盾する考え方もあるので、どっちつかずのまま、なんかうまくいかないとなるのは、まず、方針がブレブレなのが大元の原因の可能性があります。
2 観客について、きちんと調べる。
比較的手に入りやすい戯曲や演技論は、大都市圏の観客層を想定した作品が多いのですが、実際に非大都市圏の観客とはずれている可能性があります。そういった作品がしたい場合は、観客に不満を持ってもしょうがありません。観客に面白い作品を見せたいのか、自分たちが演劇を楽しみたいのか? 観客に、自分たちの面白いと思う演劇を広めたいのか? この観客層をどう考えるかは大事ですが、なんとなくやっていると、ただただ不満をためる原因になります。
3 地域性について考える、調べる。
地域性は、非大都市圏の演劇についてまわる問題です。これを気にしないというのも、一つの答えですし、最大限利用するというのもいいと思います。特に、オリジナルの戯曲を上演する団体なら、山ほどある名作戯曲から、わざわざオリジナルを作る一つの優位性になりやすいです。
ただ、観客に地域性や地域の歴史を題材にした作品を作る時は、最大限気を付けなければなりません。なぜなら、観客は地域性や地域史について、詳しい可能性が高いからです。海外映画に出てくる日本のような状態になってしまうと、とても低評価をうけかねません。地域についての資料はさほど手に入れるのは難しくないと思うので、それをさぼらず、きちんと調べることが大事です。
つづきます。
番外編 その13
劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきぼう)
1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
劇団公式HP