
有胎盤哺乳類の詳細な系統樹と分岐年代 - Science (2023) ズーノミア特集より(哺乳類の進化15)
Science誌に掲載されたズーノミア特集から、まずは、有胎盤哺乳類の詳細な系統樹を作成し分類群の分岐年代を推定した論文を見てみます。
原著論文:A genomic timescale for placental mammal evolution. Foley et al., Science 380, 365 (2023)
ズーノミア・プロジェクトで新たに解析された種を含む、241種の有胎盤哺乳類の全ゲノムアライメントにより作成された系統樹が下記となり、より詳細な分類がされています(図1)。

上の図のAを見て頂くと、線の色が緑のところがローラシア獣類、青のところが真主齧類(ユーアルコントグリレス)、両者を併せて北方獣類と呼び、ローラシア大陸(ユーラシア+北アメリカ)で進化しました。一方、赤で示したアフリカ獣類はアフリカ大陸で、橙色で示した異節類は南アメリカ大陸で進化しました。こうしてみると、ユーラシア大陸などで進化した北方獣類は圧倒的に分化・多様化が進んでいることがわかります。
論文の趣旨からは若干外れますが、ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」では、人間はアフリカ大陸や南北アメリカ大陸より、ユーラシア大陸において、社会・文化を発達させるのが先行し世界で優位に立つようになったことを示しました。その理由の一つとして、ユーラシア大陸では家畜にできる哺乳類の種類が多かったことをあげています。ではなぜ、ユーラシア大陸(ローラシア大陸)では他の大陸と比べて、ローラシア獣類の多様化が進んで、このように多くの種類が存在するようになったのか、新たな興味がわいてきます。
さて、有胎盤哺乳類の中の各レベルでの分類群の分岐年代を推定したのが下の図になります(図2)。

恐竜の絶滅の起きた6600万年前のK-Pg境界以降に哺乳類の多様化が起きたという有力な説があります。本研究はむしろ、白亜紀におけるパンゲア大陸からの大陸断片化と海水準変動が有胎盤哺乳類の多様化に重要な役割を果たした可能性が高いという仮説を提示しています。有胎盤哺乳類の起源は約1億200万年前(図2A一番左の縦棒)とされています。
そこから、アトラントゲナタ(異節類+アフリカ獣類、図2Aの橙と赤の棒)と北方獣類(真主齧類+ローラシアテリア、図2Aの青と緑の棒)内の分岐は、それぞれ白亜紀の9400万年前と9600万年前)に起きています。これらの出来事の時期は、アフリカが南アメリカとローラシア大陸の一部から地質学的に断片化された時期(約1億1000万年前以降)と一致しています。ローラシアテリア内(図2Aの緑の棒)の目間の分岐は8160万年前から7360万年前の間に発生し、これは海面上昇による白亜紀の陸地断片化のピーク(約9700万年前から7500万年前)と一致しています。真主齧類(図2Aの青の棒)の起源は8070万年前とされ、アフリカ獣類への放散は7300万年前に始まっています。
これらの上位(目以上)の分類群の分岐がほぼすべて白亜紀に起こったという強力な証拠(図2B青縦棒の部分)とは対照的に、下位(目より下)の多様化は主に、K-Pg絶滅イベントの直後、6530万年前から5360万年前の前期暁新世に限定されていました(図2B黄縦棒の部分)。
このように、本研究では、有胎盤類の多様化が、K-Pg絶滅イベントの前と後の2回にわたって起きたことが示されました。