wakaby

サラリーマン研究者、理学博士。哺乳類進化や生命科学に関わることを書いていきたいと思っています。 (https://blog.goo.ne.jp/wakaby)。

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最近の記事

京大霊長類研の解体を元所長たちが考察する - 哺乳類の進化17

2021年に京都大学の霊長類研究所が解体されました。そのきっかけとなったのは2件の不正行為でした。世界に伍して霊長類学の研究を進めてきた、日本を代表する研究体の解体は大きな驚きでした。どうしてそんなことになってしまったのか、霊長類研の元所長たちが考察しています。 原著論文:Jxiv. 杉⼭幸丸ほか. 2024. 霊⻑類研究所解体の経緯を考える. 筆頭著者の杉山幸丸氏は、第8代所長(1996年1月 - 1999年3月)です。おそらく身内としての気遣いからか、この論文の中では

    • 嗅覚、冬眠、脳の大きさ、発声学習、と遺伝子 - Science (2023) ズーノミア特集より(哺乳類の進化16)

      Science誌に掲載されたズーノミア特集から、有胎盤哺乳類の種類によって特異的な性質であるー嗅覚、冬眠、脳の大きさ、発声学習ーと遺伝子との関係を調べた論文を見てみます。 原著論文:Evolutionary constraint and innovation across hundreds of placental mammals. Christmas et al., Science 380, 366 (2023). 有胎盤哺乳類の種間のゲノムを比較するとき、変異が制約さ

      • 有胎盤哺乳類の詳細な系統樹と分岐年代 - Science (2023) ズーノミア特集より(哺乳類の進化15)

        Science誌に掲載されたズーノミア特集から、まずは、有胎盤哺乳類の詳細な系統樹を作成し分類群の分岐年代を推定した論文を見てみます。 原著論文:A genomic timescale for placental mammal evolution. Foley et al., Science 380, 365 (2023) ズーノミア・プロジェクトで新たに解析された種を含む、241種の有胎盤哺乳類の全ゲノムアライメントにより作成された系統樹が下記となり、より詳細な分類がさ

        • 哺乳類の進化14 - Science, 2023, ズーノミア特集①

          「哺乳類の進化」シリーズで、論文紹介を約2年ぶりに再開することにしました。以前は、gooブログに掲載した記事をこちらに転載する形を取っていましたが、今回から、noteオリジナル、noteのみで公開していく予定です。 哺乳類進化の大規模な研究として、米国でズーノミア(Zoonomia)というプロジェクトが進められています。動物園で飼育されている各種の哺乳類から遺伝子を回収してゲノム解析を行ない、ヒトや既知の種も含めて240種以上の哺乳類種の遺伝子配列を比較解析して、哺乳類の多

        • 京大霊長類研の解体を元所長たちが考察する - 哺乳類の進化17

        • 嗅覚、冬眠、脳の大きさ、発声学習、と遺伝子 - Science (2023) ズーノミア特集より(哺乳類の進化16)

        • 有胎盤哺乳類の詳細な系統樹と分岐年代 - Science (2023) ズーノミア特集より(哺乳類の進化15)

        • 哺乳類の進化14 - Science, 2023, ズーノミア特集①

          哺乳類の進化13‐書籍紹介「哺乳類学(小池伸介,佐藤淳,佐々木基樹,江成広斗)」

          哺乳類学の日本語の教科書としては約20年ぶりの著書になるらしい。内容は、いい意味でもそうでない意味でも、「日本の」哺乳類(学)の教科書である。日本の哺乳類についてどういうことが知られているのか、どういう研究が行われているのかということが中心に書かれているので、世界的な研究動向といった視点での記載ももちろんあるが、比較的少ない印象である。構成は、進化、形態、生態、保全の4部に分かれていて、それぞれがその分野の専門家によって執筆されている。進化と生態はそれなりに興味深く読めたが、

          哺乳類の進化13‐書籍紹介「哺乳類学(小池伸介,佐藤淳,佐々木基樹,江成広斗)」

          哺乳類の進化12‐書籍紹介「看取り犬・文福 人の命に寄り添う奇跡のペット物語(若山三千彦)」

          老人ホームで亡くなる方を看取る犬がいるというネット記事を読んで、調べてみたらその犬「文福」について書かれているこの本に行きつき、中古ですぐ購入した。新品は品切れのようだ。文福という犬の行動、とくに共感力についての貴重な記録として読ませてもらった。「文福」だけでなく、ホームにいる他の犬や猫たちの愛情深い、死に行く人に対する共感的な行動についても書かれている。横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里山科」は高齢者が犬や猫と共生できるホームである。そこの理事長である若山三千彦さ

          哺乳類の進化12‐書籍紹介「看取り犬・文福 人の命に寄り添う奇跡のペット物語(若山三千彦)」

          哺乳類の進化11‐書籍紹介「共感革命:社交する人類の進化と未来(山際壽一)」

          これはレビューするのが難しい。読む前の期待が大きすぎた。京大霊長類学派は、近年の不祥事で評価がガタ落ちしてしまったが、知名度も高く良識ある山際氏がそれをどれだけ挽回してくれるのか?「共感」はまさに諸刃の剣で現代において重要なキーワードだと私も感じていたので、どれだけ素晴らしい科学的論理展開を示してくれるのか?そのような過剰な期待があったので読んでみたのだが、申し訳ないが期待ほどではなかった。書かれていることはまっとうなことも多いのだが、私のような偏屈な人間には物足りなかった。

          哺乳類の進化11‐書籍紹介「共感革命:社交する人類の進化と未来(山際壽一)」

          やぶ医者が町から消えない理由を棲み分け理論で考えてみた

          みなさんも、病気やケガをして町のクリニックにかかるとき、よい先生(良い診断と良い治療をしてくれて、できれば親切な先生)に出会えることを望むのではないかと思います。言葉はわるいですが、「やぶ医者」にはかかりたくないというのが本音ではないでしょうか。ところが、なかなかそう思い通りにならないのが現実です。 すこし私と家族の例をあげてみます。1つ目。私は頭痛持ちで、その原因の一つが副鼻腔炎であることがわかっています。以前、副鼻腔炎が見つかってマクロライド系抗生物質とカルボシステイン

          やぶ医者が町から消えない理由を棲み分け理論で考えてみた

          哺乳類の進化10‐書籍紹介「進化で読み解く バイオインフォマティクス入門(長田直樹)」

          企業で生物医学系の研究の第一線から離れて5年、今は研究開発の管理業務を担当するようになり、さらにあと1年で定年である。しかしこれからも、研究のフィールドで何か新しいことを見つけてみたいという気持ちはある。そんな状況で一人でもできることは、自然観察のような生態学的研究か、バイオインフォマティクスを使った進化学的研究だろうと考えた。バイオインフォマティクスの分野ならプロでなくても、家のパソコンとネット上の公的データベースを使ってなにか面白いことができそうな気がする。そんな思いつき

          哺乳類の進化10‐書籍紹介「進化で読み解く バイオインフォマティクス入門(長田直樹)」

          遺伝子検査をやってみたが、健康実感とどれだけ符合しているのだろうか?

          唾液を郵送で送るだけで比較的リーズナブルな価格で遺伝子検査を受けられる世のなかになりました。体質や病気に関わる遺伝子のSNP(一塩基多型)を調べることで、様々な体質や病気のなりやすさの傾向が判定できるというものです。たまたま私もこれを受ける機会が最近ありました。で、結果を見たのですが、予想とだいぶ違っていたのです。つまり、身体の中で強いところ弱いところを自分としてそれなりに自覚しているのですが、その健康実感と遺伝子検査の結果が符合しないのです。 例えば、最近私が一番気になっ

          遺伝子検査をやってみたが、健康実感とどれだけ符合しているのだろうか?

          哺乳類の進化9‐書籍紹介「人間の由来・下(チャールズ・ダーウィン)」

          チャールズ・ダーウィンによる1871年の著、「The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex」の下巻である。上下巻を合わせた「第Ⅰ部 人間の由来または起源」の約300ページと「第Ⅱ部 性淘汰」の約700ページのうち、性淘汰の後半部分約500ページが下巻に入っている。最後に「全体のまとめと結論」の章があって、訳者の長谷川眞理子氏による解説が付いている。性淘汰は、自然淘汰とともにダーウィンが初めて提唱した概念であり、進化の

          哺乳類の進化9‐書籍紹介「人間の由来・下(チャールズ・ダーウィン)」

          哺乳類の進化8‐書籍紹介「人間の由来・上(チャールズ・ダーウィン)」

          本書はチャールズ・ダーウィンによる1871年の著、「The Descent of Man, and Selection in Relation to Sex」の長谷川眞理子氏による日本語訳である。当初、日本語訳は1999-2000年に「人間の進化と性淘汰」として刊行されているので、「人間の由来」より、そちらのほうがタイトルとしては的確である。その時代におけるダーウィンの先見性や、これでもかといわんばかりの綿密な情報と考察の積み重ねにはすばらしいものがあるが、現代の進化生物学の

          哺乳類の進化8‐書籍紹介「人間の由来・上(チャールズ・ダーウィン)」

          腸内菌叢を調べてみた

          近年、腸内菌叢と健康や病気との関係の研究が進んでいます。そして、自分の腸内菌叢を調べてもらえるサービスもだんだん普及しつつあります。最近たまたま、自分の腸内菌叢を調べてもらう機会がありました。 腸内菌叢の良し悪しや状態はどうやって判断するのでしょうか。一つ目は腸内菌叢の多様性が高いか低いか、二つ目はどういった菌で構成されているかというエンテロタイプ、三つ目は善玉菌や悪玉菌の量、といったところが判定されます。腸内菌叢の検査結果とともに、それぞれの項目の解説も見ることができるの

          腸内菌叢を調べてみた

          直腸がんと食生活

          坂本龍一氏が直腸がんとその転移がんのため、亡くなられました。2020年に直腸がんが見つかったときは、ステージ4という、5年生存率15%の段階に来ていました。 かくいう私も、2020年に直腸がんの手術を受けました。ステージ0という初期段階にあり、5年生存率は98%です。しかし、病巣が肛門の近くだったため、肛門を温存するために、がん病巣をごっそり切り取るのではなく、部分的に切除する方法が取られました。手術は完了し、経過観察のため半年ごとに内視鏡検査を行っています。そうすると、手

          直腸がんと食生活

          哺乳類の進化7‐書籍紹介「人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」(篠田謙一)」

          スバンテ・ペーボ博士が、「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞したのが、2022年10月だった。本書はまさにこの分野ーゲノム解析による進化人類学ーの現在の知見をまとめた本であり、こうした学術的なかたい内容の本としては、ずいぶんと売れたようである。帯には「ノーベル賞で話題!」と書かれていて、ペーボ博士の業績はどうすごいのか、いかに革新的だったのかといったことの解説が書かれているものだと思っていた。しかし、そうした内容は「はじめに」に

          哺乳類の進化7‐書籍紹介「人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」(篠田謙一)」

          哺乳類の進化6‐書籍紹介「哺乳類前史: 起源と進化をめぐる語られざる物語(エルサ・パンチローリ)」

          著者のエルサ・パンチローリ氏はイギリスの若手古生物学者である。名前にパンチがきいているので、はじめ男性だと思っていたが、本を読んでいくと途中で女性であることがわかる。現在、オックスフォード大学のリサーチフェローなので、いわゆるポスドクということで、本来ならどんどん研究成果=論文を出すことに集中して、パーマネントの職を得ることを目指す時期だと思われるが、こんな大著の本をよく書けたものだと驚いた。5カ月の執筆休暇を取ったという。さらに、次の本もすでに出版したという(日本語訳は未刊

          哺乳類の進化6‐書籍紹介「哺乳類前史: 起源と進化をめぐる語られざる物語(エルサ・パンチローリ)」