親孝行の仕方が分からない
私って親不孝だな、とふと思うときがある。
昔からそう思っていたわけではない。
20代前半の独身だったころ(正確に言うと今の夫と付き合い始める前まで)は、母親との距離がとても近かった。
大学に入ると同時にひとり暮らしを始めて、両親とは離れて暮らしたが、毎日夜になると母と電話をし、2カ月に一回くらいのペースで帰省していた。
母が私の部屋に泊まって、二人でディズニーランドに行ったり、好きなアーティストのライブに行ったりもしていた。
とにかく、距離は離れていても、心理的には母とべったりだったのだ。
それが親孝行だ、と信じていた。
でも、夫と付き合い始めて状況は変わった。
夜は彼と電話するので母とは話さなくなり、長期休みは旅行に行くので帰省は年に2回ほどに減った。
「彼が来ているでしょうから」と、母が私の部屋に遊びに来ることもほとんどなくなった。
結婚して夫と暮らすようになって、ますます電話の頻度も減ったし、コロナの状況が落ち着いて帰省できるようになっても、きっとお盆と正月くらいしか帰らないだろう。
結婚式をしなかったから、直接花嫁姿は見せられなかったし、フォトウエディングの写真も、なぜかケチってしまって安っぽい台紙のもの一枚しかあげられなかった。
そもそも、コロナ禍真っ最中に入籍したから、結婚してから両親に会えていない。
親孝行ってなんだろう。
頻繁に電話することだろうか、頻繁に帰省することだろうか。
ある時、私と母の距離が近すぎることが原因で、夫とケンカ寸前になった。
簡単にいうと、先に決まっていた夫と出かける予定より、突発的に決まった母との予定を私が優先したことが原因だった。
正直、そのことについては、怒った夫と、悪びれずそうした私のどちらが間違っていたのか、今でもよく分からない。
母に「娘が元気でいてくれればそれでいい」、という寛容さを求める気もないし、夫に、母との予定を優先することを許してほしい、と言う気もない。
そんなの、都合が良すぎると思う。
離れた場所にいても、私は幸せで元気にやっている、とうまく伝える術が見つからない。
今思えば、母とべったりだった頃から、親孝行の仕方が分かっていなかったのかもしれない。
結婚して自分の家庭を持った今、ますます分からなくなってしまった。
(このことを考えるときに、父の顔があまり浮かばないのはなぜだろう。そこにも何か問題が隠れている気がするのだ。)