詩・散文5

ながれでる

語彙は流れ出る。
私の頭の中を――あるいは脳の表面を、心というもののうちがわを――流れ、こうして指先からほとばしる。
前兆はない。前兆はない。それは本能の働きに近い。
私の欲望、あるいは衝動、わたしの心、体、魂、そのいずれかもしくはすべてが、私にことばを放たせる。
私は、――わたし、が含まれる人間という知性持つ生命は、ことばの波に飲まれて生きる。
生きているのか?
私はことばの奴隷である、わたしを表すものはことばである、私を証明するものはことば、それに他ならない。
ことば無くして生きてはゆけない。
生きているのか?
ことば無きものに存在の証明ができるものか。
知性はことばに宿り、思考はことばを以て成る。
語彙は流れ出る。
それはわたしがわたしであると、ここにいるという存在の証明を、それらすべて、あるいはひとつ、その形をなすための手段だ。
ことばよ。ことばよ。
願わくば、ことばよ。人類が人類になったときからの原初の友たる概念よ、願わくば。
わたしから失われてくれるな、と、祈ってやまない。

語彙は流れ出る。

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