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ウィーン日記|聞かせて欲しい
そうか、悩んでいるんだと思った。まだわからないことをわからないと割りきれなくて、うだうだ考えてる。二年後、日本に帰るか、ウィーンに残るか。日本に帰るとして、どうやって食っていく?ウィーンに残るとして、どうやって残る?他の選択肢はない?と考えながら、二年後なんてまだ先でしょ、と声がする。今度は、夏までの一対一の哲学カウンセリング、どうやってやっていこう?と頭を悩ませる。自分は何がしたいんだろう。何ができるんだろう。何から試したらいいのかな。ドイツ語もネイティブがすこし本気を出すともう聞き取れなくて、書きたいこともうまく書けない。知らない単語ばっかり。ドイツ語ものにするなんて、二年あっても足りないかもしれない。たぶん、食っていくなら日本語メインにしたほうがいいに決まってる。これ、初めて岡山の工事現場入った時も思ったな。自分に今ないものを要求されて、無理だよって心が泣いてる。どうしてどうにかなるかもって思っちゃったんだろう。俺なんでウィーンに来たんだっけ。これだったら、日本で勉強してた方がよかったんじゃないのかな。
大学で哲学書を読みながら、大親友ティモンとパーティでたまたま会えた時も、ティモンが交換留学が終わって別れた後は、江國香織がすきだった元恋人と一年間を過ごし、その後何やかんやあり、ウィーン大学に来た。高校で物心ついてからというもの、今もなお、自分のことも、自分の人生のこともよくわからない。わかったことがない。俺ってなに?俺の人生ってなに?生きてることに何の意味があるの?いつも考えてる。だから、目の前にいるその人が誰なのか、その人の人生が何なのか気になる。何百人と聞いてきたけど、やっぱりよくわからない。そうか、俺が哲学カウンセリングをやるのは、あなたの話を、あなたの人生の話を聞かせて欲しいからだ。
けれど、流れ星を見るような頻度で、これだ!と思う瞬間もある。深く沈んで、どれくらい時間が経ったかもわからなくなる。いまこの時だけは、時間もTo Doリストも外野も全部置いてけぼりにして、確かに存在している。何もかもリアルで、みずみずしく世界との関係を取り戻す。この俺が世界の主役。ああ終わらないで欲しい、ずっとここにいたい。
これをまた味わうためだったら、つまんなくて、疲れ切っていて、他人の不親切に発狂したくなるような日々でも耐えられる。お金だとかキャリアだとか、そういうことは一先ずおいてのめり込みたい。あ〜〜そうか、そうなんだ。この人生でよかったと心の底からまた思いたいから、今日は早めに寝ます。
p.s.
年末、剣道部の同期と会うんだ。最も仲の良かった二人。一人はパイロット、もう一人は医者。もう、笑っちゃうでしょ。会社員してた時に、二人に嫉妬せずに済む方法は哲学者になるしかないって思わせてくれた二人。会ったらどうなるのかな。やっぱり妬んじゃうのかな、彼らの計画のある人生と、きらきらして見える人生の断片が。笑っていておくれ。俺は俺だとその白い歯を見せておくれ。
そう言えば、最近、同じようなキラキラ系のマティアスと友達になった。40歳で医者を辞めて、哲学者としてのキャリアを始めた。今度は彼に対して嫉妬してる。羨ましいと思ってる。俺も哲学者になりたいって思ってるんだろうな、と思って面映い。苛々するけど悪い気はしない。本当に哲学者になりたいと思ってるからだ。
俺だから、俺の人生だからできることがあるって思いたいな。今の今まで全部なかったら、これって絶対なかったなって思いたいな。この俺に、この俺の人生に、まだ何かあるってもう少しだけ信じてみてもいいですか。
(おわり)
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