レビュー|アキラとあきら(続き)2022.11
7
良すぎてまた観に行ってしまった。映画への没入感で言うと、1回目に劣るけど、2回目だからわかったこともあったし、1回目とは違う視点も見つけられた。
まず、山崎が井口ファクトリーから担当を外されたのは割と真っ当な判断に見えた。その後の不動の差押えもやり過ぎではあるが、山崎が銀行員の立場を忘れて熱くなりすぎてしまったのも否めない。
その後、再会した二人。山崎は「理想の何がいけないんですか。理想を追い求めて、それを確実にするために計画を立てる」と不動に突っかかる。不動は「行員が皆、お前のように鳴り物入りで入っている訳じゃない。お前の貸した140億が貸し倒れたらどうなる?1000円、2000円を積み上げて顧客から集めてきた行員の信頼まで一瞬で消し飛んでしまうんだぞ」と言ったシーン。”確実”という言葉を使った山崎と、周りをよく見て、山崎の実力も評価している不動。山崎がただ理想を追い求めるだけの青い行員ではもはやなくなったことと不動が自分のキャリアのためだけに確実性を重んじてる訳ではないことが分かる、良いシーンだ。
頭取、多分山崎が小さな頃に、先輩と一緒に山崎プレスに来ていた人だったんだろうな。最初の山崎と階堂の一戦に使われた企業データは山崎プレスだ。
それから、「後悔するぞ」「やれることはやる。ここ何とか乗り切ろう」このシーンまじで激アツだったな……!
8
小説を読んだ。本の厚みにふさわしく、作り込まれた長編小説だった。でも長いな、あと何ページで次の章だからそれまでに辛抱、、とか思うことは一度もなかった。瑛と彬の物語は軽やかで、どのシーンも魅力に満ちていた。映画には映画の、小説には小説の良さがある。それを書きたい。
まず、小説を読んで多くのことが腑に落ちた。一つずつ行こうか。
龍馬が社長になった経緯。まず父一磨が亡くなってから、すぐに龍馬が社長になった訳じゃなかった。小説だと、常務の小西では上手く行かなかったため、龍馬に席が回ってきた、という筋書きだった。彬が社長になったのも、小説を読むと確かに彬しかいない気がしてくる。小西が頭を下げたんだもの。これまで同族経営でずっとやってきたという事情もあったんだろう。
それと、山崎の作ったスキーム。俺はてっきり、映画だと大日麦酒がロイヤルマリン下田も買い取ったのかと思っていた。山ちゃんは連帯保証を解除してくれとしか言わなかった。それが、ロイヤルマリン下田の借金を無くしてくれという意味だったとしても、あの流れだと大日麦酒がロイヤルマリンを買い取ったんじゃないか、、?大日麦酒、お前ホテルの再建なんてやれんのかよ、と思ったけど、小説だと彬が再建することになっていた。「必要な資金は140億円だ」のシーンは震えた。これまで、映画の影響もあって、瑛推しだったのに、小説でも早く瑛を出せよとぶうたれてたのに、彬さん〜〜〜!!となった。あのシーン。
あと、最初の粉飾合戦のシーン。何で彬は手を抜くような真似をしたんだろう、と思ったけど、あのルールだと会社側が有利だから、というのがあったようだ。
まだある。小さいことだけど。こんなに良い映画なのに、あの終わり方がちょっと解せなかった。最初は良かったけど。小説でも、良い小説なだけに、微妙だった。最後に彼女を出してくるなら、もう少し途中で出てきても良かったんじゃないか。彬と話すシーンがあっても良かったのにな、と残念。
9
逆に、映画にしかないオリジナル脚本だったんだ、という気づきもあった。福山に飛ばされて修行する展開がないため、そこでNYからの手紙を受け取るというのも小説にはない。専務に新チームへの配属を打診されるも断って、東海郵船の担当にならしてもらった、というのも変な話だ。瑛だからって、東海郵船の担当にさせてもらえるほど人事は甘くないのでは。閑話休題。不動との対決シーン、好きだったけど、ここも映画オリジナルの展開のようだった。あと、映画の方が瑛vs彬の構図を作りたがっているように見えた。これはおそらく監督の意向だろう。
10
それに対して、映画にはないが小説にはある描写はめちゃくちゃ多い。このボリュームを1本の映画にすることがそもそも至難だ。ただ、瑛の苦労っぷりはあそこまで書いてあったのに、瑛の銀行員としての活躍ぶりが少々少ない気がした。でも、人生に翻弄される経緯があるからこそ、瑛が井口ファクトリーへの融資を不動に熱く迫ったことも、最後のシーンの不動への一言も納得できる。それから、子供時代に北村と話していること、スーパー対商店街の経営戦略に興味を持ったことは、瑛の将来への道筋を少し導いたんじゃないか、と面白い。上には上がいるのか、と目から鱗が落ちるシーンも良い。この世界、マジで何なんだよ、と自分の知らない世界を見る憧憬の眼差しだ。自分の過去に合理的な説明をつけたかった気持ちもあっただろうか。
11
瑛が銀行員になる直接の要因を作ったのは、工藤だろう。工藤、マジで良かったな。映画で満島真之介見たら泣いちゃうよ、良い奴すぎる。速水が瑛のお父さんを救ったシーンも良かった。こういう胸がすく展開は池井戸潤の十八番だね。
瑛にとっての工藤は、彬にとっての安堂だ。工藤や安堂、彼ら脇役がいるからこそストーリーは面白くなる。安堂、好きなんだよな〜人間としての器があって、人を思いやるということを知っている。実力者だ。カッケェ……「御用聞きか、これが?」のシーンは胸が熱くなった。ビジネスの最上流はこうなっていたのか。面白いじゃないか、、と思った。一磨の苦悩ぶりも見応えがあった。そういう父親のもとで育った彬。まさにサラブレッドだ。
瑛と彬の掛け合いは、最初の融資一刀両断でも最後の最終稟議でも魅力に満ち満ちていた。高みにいる二人にしか分からない、二人には見えているから、話が俺たちを取り残して進んで行く。何て気持ちが良いんだろう。卓越性とは何であれ、輝いているものだ。俺は山崎みたいになりたい。
p.s
三原や北原をポッと出で終わらせない所は、しかも不自然ではない仕方で、書評の村上さんに俺も同意だ。旧知の人達とのコラボは心躍るね。工藤に「君の将来を誰かのために役立てて欲しい」と言われて、山崎は銀行員になった。奮い立つ作品だった。アキラとあきらとともにあった数週間は狂ったように働いていた。